[創商見聞] No.2 井駒 由佳 (みなと喫茶部 夜間部 手芸部代表) × 西村 里織 (心とからだのカウンセリング友癒代表)

コンセプトは自分の生き方にもつながる

―創業のきっかけは。
井駒 10年くらい前から何かやりたいとずっと思っていました。もともと企業のプロダクトデザイナーをしていたので、ものづくりとかクリエーティブなことをしたいなと。ただ会社員時代は、例えば電車の中で自分がデザインした腕時計をしている人を見掛けたとしても、駆け寄って握手するわけにもいかなくて…。自分で作ったものをお客さんに手渡すところまでやりたくて、この形にしました。
西村 私は自分自身の経験がきっかけになっています。一つ目は、大学時代にひどいアトピーに悩まされていたことがあったのですが、中医医師に漢方薬を処方してもらったら、劇的によくなったこと。二つ目は、長男の出産後に体調を崩し、いわゆる産後鬱(うつ)にかかったこと。漢方薬を服用して克服したことから、産前産後の女性の手助けができればと思い、3年前からは実店舗を設け、新たなスタートを切りました。

―創業に対して家族の反応は。
井駒 夫にいつも言われていたのは、「会社をやめてもいいけれど、やめたことを後悔するな」ということ。さらに「どうしてもこれがやりたいからやめるんだ、という気持ちなら応援する」と言われていました。私は思い立ったら行動するタイプなので、夫はいつもそれを見ていて、時々アドバイスをくれるくらい。資金面も全部自分で出したし、自宅を改装してお店にするのも自分で手配しました。
西村 やめろとは言われなかった。言えなかったのかもしれないですね(笑)。夫の両親と同居しているのですが、「同居することは譲ったから、仕事だけは譲れない」と夫に言いました。今、家事や育児の面で、夫や義理の両親に本当に助けてもらっています。家族の協力はすごく大きいですね。

―創業までの道のりは。
井駒 まず創業塾(※1)に参加して、半年くらい毎週通いました。また商工会議所にも入って、まちづくりなど、いろいろな会議に出たことでたくさんのつながりができました。その時の仲間は今でも付き合いがあって、仲良くしています。そうやって商工会議所にお世話になっていたので、創業時にも創業・第二創業促進補助金(※2)の申請を手伝ってもらい、補助金の限度額いっぱいまで受けることができました。
西村 私もまず商工会議所に相談に行ったら、すごく親切にいろいろ教えていただいて…。小規模事業者持続化補助金の書類を書く時も、分からないことがあるたびに伺って、親身に対応してもらいました。最近も補助金の書類を書くのに何回もやりとりして、時には夜の9時までかかったことも。事業計画書などもそうですが、「これじゃ伝わらない」などと、赤点先生のように細かく指導していただきました。

価格以上のサービスの保証と継続を

―壁にぶつかったことは。
井駒 やってみて、できないことがあるということが分かりました。最初は喫茶部、夜間部を常時やろうかと考えましたが、お店と自宅を兼ねているので、夜の営業は夫にも負担をかけてしまう。いろいろ経験した上で、ならば「注文の多い料理店」になろうと割り切って、無理なことはやらないと決めました。今は喫茶部も夜間部も予約制にしてマイペースを守っています。
西村 人に言えない失敗ならたくさんしているんですけど(笑)。雇用という面では以前苦労しましたね。人を雇うとなると、自分がいっぱいいっぱいの時でも従業員を見なきゃいけない。結局、見切れなかった。「自分の見える範囲って限られているんだな」と気付かされました。今は2人雇っていて、ちょうどいいバランスですし、雇用しているからには従業員にもっと良い生活を提供できるようにしたいと考えています。
後は集客方法が悩みの一つですね。既存のお客さんとはフェイスブックでつながっているのでフォローしやすいのですが。ブログをしっかり書いていた時は新規のお客さんも入ってきましたが、毎日書くのが本当につらくて(笑)。
井駒 宣伝という意味では今まで試してみて一番効果があったのは、新聞広告とシリゼミ(※3)かな。私も集客については模索中です。

―創業を考えている人にメッセージを。
西村 私が声をかけるとしたら、「きちんと採算が合うようなビジネスモデルを作らないと駄目だよ」と言いたい。特に女性だと、「安い料金に設定した方がいいよね」という考え方になりがちですが、きちんと稼げるような形でないと、結果的にお客さんに迷惑をかける。お金をしっかり取るということは、お客さんに対してそれ以上のサービスを保証し、さらにそのサービスを継続するという表れだと思います。
今後は、漢方はもちろんのこと、ヨモギ蒸しの生薬ですごくいい組み合わせがあるので、そこも伸ばしていきたいと考えています。ゆくゆくはインターネットなども使って全国に広めて、いろいろなところに卸せるようにするのが夢。最高の技術、サービスをきちんと提供していきたいので、採算を考えながら事業を進めていこうと思っています。
井駒 創業する上で一番必要なのはコンセプトだと思います。コンセプトがしっかりしていれば、途中で悩んでも、その軸に戻ることができる。そこがブレると、変にお金もうけに走ったり、中途半端なものを作ったりしてしまうと思います。私は今のところブレたことがない。立ち止まったこともない。コンセプトを持つことは、最終的に自分の生き方にもつながる大切なことだと思います。だからまず「自分のコンセプトは何だろう?」と問い掛けてほしいですね。

※1 創業塾…商工会議所が行っている創業支援の一つ。創業を考えている人向けに、各種支援策や創業計画づくりなど、講師を招きながら指導を行う。現在は「地域創業スクール」として開催している。
※2 創業・第二創業促進補助金…創業者に対し、審査の上、その経費の一部を国が補助する事業。
※3 シリゼミ…塩尻商工会議所主催の賑(にぎ)わい創出事業。商店及び事業所の店主、従業員を講師とした、一般向けのゼミナールを開催。お店の魅力を伝える、新しいお客が増えるなどの効果がある。

【いこま・ゆか】 みなと喫茶部 夜間部 手芸部代表
伊那市出身 57歳
デザイン会社を経て、精密機器メーカーに入社。プロダクトデザイナーとして時計やプロジェクターなどのデザインを担当した。2004年ごろからものづくりに関する事業の模索を始め、14年8月、カフェとものづくりができるスペースを併設した店を塩尻市広丘にオープン。店名「みなと」は「皆と」から。

【にしむら・さおり】 心とからだのカウンセリング友癒代表
東京都町田市出身 38歳
会社勤務の傍ら、漢方の勉強を始め、国際中医師の資格を取得。退社後の2009年1月、漢方カウンセリング友癒を創業。第2子出産に伴い2カ月の休業を経て、13年12月に塩尻市広丘に実店舗を構え、ヨモギ蒸しや整体も合わせた現在の形に。14年7月に株式会社化。