[創商見聞] No.15 亘 亘 (ながわファクトリー 代表)

 地域の皆さんと奈川を発信

―創業のきっかけは。
 自然豊かな所で子育てをしたいと思い、22年前に奈川に移住しました。同時に今の奈川振興公社に入り、13年間宿泊施設の施設長を務め、2009年に独立しました。
 きっかけは、市の宿泊施設の閉鎖が決まったことです。野麦峠スキー場に向かう途中の施設で、観光面から見ても、なくなるのは忍びないと思いました。個人には貸し出せない規定がありましたが、奈川産品の商品開発に取り組んでいた時で、商品化するためにちょうど法人化したところでした。これにより施設を借りられることになり、宿泊業と奈川産品の販売業で創業しました。
 ―商工会議所とのつながりは。
 創業の翌年から、ながわ観光協会長に就任しました。地域振興のためには、観光と商工のさらなる連携が必要だと思い、商工会議所に相談しました。
 当時、希少価値の高い奈川在来のそば粉を使った「干しそば 奈川」を開発し、どう売り出そうか考えており、商工会議所の提案で、夏のそば祭りを開きました。夏のそば祭りは全国でも珍しく、「日本一早く新そばが食べられる」と銘打ったところ、これが当たって…。集客にも手応えを感じ、その後の寒中そば祭りや新緑そば祭りにもつながりました。
 松本の伝統野菜「保平カブ」を使ったドレッシングを開発した際は、商工会議所を通じて松本大学に協力していただいたり、奈川そばで焼酎を造りたいと考えていた笹井酒造さんと私を引き合わせてくれたり。他にもPRの仕方や地元の合意形成など、一口に商業支援と言っても、内容は多岐にわたるものでしたね。
 ―創業後苦労した点は。
 宿泊客をどう増やすかは悩ましい問題でした。商品開発や観光PRなどで外に出ていく機会も多く、山荘の営業との兼ね合いが難しかったですね。とはいえ、土台である宿泊業がしっかりしていないと、他のことも成り立たない。初めは常連客に口こみで広げてほしいと思っていましたが、次第にインターネット上の口こみやトラベルサイトの活用が重要だと気付き、プランをいろいろと考えて絶えず掲載してきました。今ではインターネット経由のお客さまがほとんどです。妻と二人で営業しているので、宿泊客を増やしつつ、コンパクトで効率の良い経営をしていきたいと思います。
 商品開発については、そば、ドレッシング、焼酎と作ってきましたが、これでは足りないと思います。もっと特産品が出てくれば、販売スペースの棚の丸ごと一つを奈川産品で埋めてアピールすることができます。宿泊業があるので販路拡大にかける時間には限りがありますが、各所と連携して「奈川」の2文字を少しでも外に出していきたいです。
 ―今後の事業展開について。
 今年、国の事業承認を受け「信州・松本奈川グリーンツーリズム推進協議会」という地域団体を立ち上げました。今後2年間かけて、奈川の地で農泊事業を進めていく予定です。農泊の良い点は、▽地域に直接来てもらえること▽自然や農業、林業など、もともと地元にあるものを活用できること▽住民の皆さんと観光客が触れ合う機会が持てること|などです。体を使うアクティビティーや奈川の歴史体験、以前商工会議所に手伝っていただいた健康に関する観光事業なども盛り込み、将来的には、東京五輪がある20年に向けてインバウンド(海外誘客)も考えていきたいと思います。そしてそれをぜひ地域の皆さんと一緒に取り組んで行けたらと思っています。
 奈川には、かつての農山村の姿が残っています。「私は奈川をこうしたい」というのではなく、昔からある奈川の良さを知ってほしい。奈川の地をより多くの人が知り、実際に足を運んでもらうために、これからも活動していきたいと思います。

【わたり・わたる】 合同会社ながわファクトリー代表。東京都大田区出身。57歳。平成7年に家族で奈川地区(旧奈川村)へ移住。公的宿泊施設の施設長として勤務した後、21年に温泉宿 山荘わたりを創業。翌年から7年間、ながわ観光協会長として国内外でのキャンペーンなど、奈川の宣伝活動を行う。15年には長野県観光機構から功労者表彰。現在に至る。