[創商見聞] No.16 塚原 米子 (アソシエ 社長)

失敗恐れず何事もチャンスと

―主婦から創業者になった。
創業前は3人の子どもを育てながら、パートで経理事務をしていました。次第に、「私はこの先ずっとこの仕事を続けるのだろうか」と思い始め、何かやりがいのある仕事をしようと考えました。料理が得意だったので、おいしい物を作ることなら自分にもできるのではないかと思い、後任の人を見つけて仕事を辞め、イタリアンとフレンチのレストランで働き始めました。1年くらい働いたところで、専門的な資格や知識も必要だと思い、調理師専門学校に入学し、調理師免許を取りました。
その間も自宅では試作を続けていました。ギョーザ、カレー、ラーメン…。プリン専門店に決めたのは、新聞で見つけたセミナーがきっかけです。女性向けの起業家セミナーに参加し、さまざまな業種の方たちと意見交換をしました。セミナー最終日、家でよく作っていたカボチャのプリンを持参したところすごく好評で、「これだ」と思いました。「専門店として創業すれば独自性も打ち出せて良いのでは」と皆さんに相談すると、賛同してくれました。その中の1人の縁で、市内の病院の空き厨房(ちゅうぼう)を借りられることになり、2000年に「プリン専門店 春夏秋冬」を創業しました。
―反響は。
この病院の前での販売と卸売りを少しずつ始めたところ、口コミで広がったのか、地元紙や雑誌の取材が舞い込むようになり、お客さんも増えていきました。 
翌年には商工会議所の紹介で、東京の百貨店で行われた物産展にも出店しました。ただ物産展に出すにはそれなりの数が必要です。そのころはまだ1人で営業し、一度に焼ける量も100個と、今考えると無謀でしたが、挑戦したいという一心で乗り切りました。朝の3時に厨房に来て、高校生の娘や知人にも手伝ってもらい、何とか用意しました。予想を上回る1日700個が売れ、手応えを感じることができましたね。
その後も別の百貨店の催事や商業施設のイベントに出店し、それがきっかけで新聞の全国紙に取り上げられ、遠方からお客さまが訪れたり、インターネット販売の注文が増えたりと、さまざまな効果がありました。
お客さまのつながりで松本駅前の商業施設に出店したほか、レストランへ自ら営業に行き、卸し先の開拓などもしました。「失敗するかも」と考えたら何もできないので、どんなこともチャンスと捉え、やってきました。
―この他の商工会議所とのつながりは。
創業初年度は経理指導をしてくれる税理士を紹介してもらいました。帳簿の付け方、確定申告の仕方など分からないことを教えていただき、とても助かりました。
昨年は小規模事業者持続化補助金の受給に向けて指導してもらい、無事に採択され、新商品をネット販売する費用に活用しました。以前受けたセミナーでは、相手の自発的な行動を促す「コーチング」について学び、従業員教育に役立てるなど、創業時だけでなく、現在までいろいろな形で相談に乗ってもらっています。
―今後の事業展開は。
実はこの3年で経営方針を転換しました。創業当初は催事に力を入れていましたが、今は売り上げが見込める場合に限り出店するようにしています。当時は全国的なプリンブームが追い風になりましたが、それも落ち着いたので。次の展開を考えなければなりません。
創業時は小回りが利くよう1人でやっていきたいと思っていましたが、徐々に規模も大きくなり、現在では4人の従業員を雇用しています。1日100個しか焼けなかったプリンが、1500個焼けるようになり、商品数も増えました。今後はお店の経営を続けるためにも卸しの販売強化に取り組みたいと思います。
また中町に新店舗を作る予定です。昨年から探していましたが、偶然すてきな物件に出合うことができました。テークアウトとイートインができ、地元の方も観光客の方もわくわくするような店内で楽しい空間を提供したいです。そしてそれをインスタグラム(会員制交流サイト)でも発信していこうと考えています。
―創業を考えている人へメッセージを。
物事は受け止め方が重要です。できないんじゃないか、失敗するんじゃないかと、不安を抱えていると自分が疲れてしまうだけ。目の前にやらなければいけないことがあったら、それをやるにはどうしたらいいかを考えればいいんです。
私の場合は子育てをしながらの創業で、夫や子どもたちに協力してもらい、いろいろな方たちのお力も借りて今日までやってこられました。ただ「やるのは自分」という覚悟を常に持っていました。創業は、「自分ならできる」と思うことが始まりです。まずは自分のことを信じてあげて、そのスタートを切ってください。

【つかはら・よねこ】 有限会社アソシエ代表取締役社長。小谷村出身。2000年に病院の空き厨房を借りて創業。2002年には生産性向上のため、双葉の対面販売できる店舗へ移転し、店舗での販売、卸し、催事での販売、ネット販売などで売り上げを伸ばす。2004年に法人化。地元食材を使い無添加で作る定番のプリン、日替わりや季節限定品の他、プリン大福やプリンロールなど新商品の開発にも励む。