[創商見聞] No.6 碓井 道乃(緑翠亭 景水常務取締役 )× 遠藤 美湖(立山プリンスホテル取締役)

大町にしかない最大の武器をつくりたい

―現在、中心に行っている活動。その経緯は。
碓井 以前の温泉郷は、オーナーが直接運営する施設が大部分でした。でも今は、経営主体が別の施設がほとんど。こうした運営をしているのは、うちと遠藤さんのところを含め、3軒のみです。昨年、温泉郷は50周年を迎え、これから先の100周年を見据える中で、私たちが頑張って動かなければ、周りがついてきてくれないのではないかという危機感もあり、50周年事業の実行委員長を遠藤さんが、副委員長を私が引き受けました。
遠藤 父親世代がまだ現役で経営に携わっていますが、50周年などのイベント事になると、現場で中心になって作業というわけにはいきません。また親世代は、「ダムがあれば温泉郷に人が来る」といういい時代を知っていますが、私たち世代は知らない。そういう流れの中で、「そろそろ若い者に任せてもいいのかな」という雰囲気と、50周年がうまく重なり合ったと思います。

―50周年イベントの反響は。
碓井 とにかく1年を通してイベントをやることに主眼を置いていました。「いつ来ても温泉郷で何かやっている」という印象を与えたかった。そこでお客様感謝デーやサマーフェスティバル、フリーマーケット、花火の打ち上げなど、さまざまな企画を用意しました。お客様感謝デーは前年に1度やってみて、内容の練り上げや改良を行い、50周年に生かしました。
初めてのことなので、何のノウハウもなく、初回はけっこう大変でした。温泉郷でイベントをやっていても、街中の人たちに意外と知られておらず、その年は200人来たかどうか…。
遠藤 あれは成功とは言えなかったよね。
碓井 認知されていないことが分かったので、市内の人が来やすいようゴールデンウイークの最終日に旅館などを回るウォークラリーをしました。無料の入浴券も作り、温泉に入って旅館を見てもらうきっかけにしました。とにかく地元の皆さんに、もっと温泉郷を知っていただきたかった。
遠藤 私は商工会議所の青年部に、碓井さんはJC(青年会議所)に所属して街中の企業の人たちと関わる中で、「市内と温泉郷がもうちょっと近づけばいいな」という気持ちがみんなの中にあることが分かりました。そこで、50周年を機に市内の皆さんに温泉郷を訪れてもらいたいと、イベントの8割を市民向けにしました。
新規の観光客を呼ぶのは二の次で、「地元の人に足を運んでもらって温泉郷を身近に感じてほしいな」と。そうした思いでイベントを重ね、50周年のお客様感謝デーには、1000人ほどが来場してくださいました。

地域全体で取り組み大町ににぎわいを

―今後取り組みたいことは。
碓井 一つ一つのイベントを自立させたいです。私たち自身、本業の仕事があるので、イベントの半分以上は仲間の団体などに委託しています。今は皆さんに利益を出してもらうことができず、ボランティアで働いてくれている部分があります。
補助金なども利用しており、50周年事業では県の元気づくり支援金の活用の仕方が評価され、地方事務所長賞をいただきました。また私が関わっている食のプロジェクトでは、銀座NAGANOでの、大町のお祭り御膳の試食会開催時に、別の補助金も利用しました。
補助金を使うことにたけていなかったので、商工会議所などにいろいろと相談に乗ってもらえたのは、本当に心強く、ありがたかったです。最終的には補助金がなくても運営できるようにするのが目標です。
遠藤 大型旅館の誘客については、インバウンドは外せません。3年ほど前から台湾でアルペンルートが爆発的に人気となり、突然観光客が増えました。今後はタイやベトナムなど東南アジアからも増えるのではないかと思っています。ただ、国の数が増えると、それぞれの文化に合わせた接客が必要になってくるので、簡単ではないですね。看板に入れる言語も増やしていかなければならない。今後の取り組みを考えていきたいです。

―温泉郷の担い手として。
碓井 やはりこのままでは駄目だという認識があります。親たちには成功体験がありますが、自分たちはありません。いま温泉郷が置かれている立場とか、売り上げとか、時代とかを冷静に見る必要がある。人脈など、親からもらったものに感謝しつつ、常に新しい目線で進んでいかなければなりません。
インバウンドも、初めは反対されましたが、今では欠かせません。大町のスキー場は初心者向きなので、東南アジアのスキー未体験者に売り込んだり、普段はベッドを使う外国人に日本風の畳に布団を敷くスタイルを紹介したり、温泉郷ならではの良いところをアピールしていきたいです。
遠藤 今は個々のお店で商品を作るのではなく、地域全体で計画し、集客するのが主流です。どの地域でもそういう取り組みが進んでいますが、大町ではまだ少ない。これまで個別にやっていたものを温泉郷全体で、そして大町全体でと、共にやっていきたいです。それにより、大町ににぎわいが生まれてくれたらと思います。
碓井 商品づくりに関しては、大町に目立った名物がないのが悩みです。リンゴやそばなどはどこでも提供しているので、大町独自のものを作らないと、いずれ他地域に負けてしまいます。ここにしかないもの、ここでしかできないことは何か、市内の人たちと考えていきたいです。今や全国が競争相手です。他にはない最大の武器をつくって、大町をオンリーワンにしていきたいですね。

【えんどう・よしこ】  大町市出身 42歳
京都の短期大学を卒業後、京都で働き、26歳で帰郷。その後1年間、東京のYMCA国際ホテル専門学校で学び、立山プリンスホテルに入社。2017年度、大町商工会議所青年部会長就任予定。2014年7月より現職。

【うすい・みちの】 緑翠亭 景水常務取締役 大町市出身 44歳
東京の短期大学を卒業後、電機メーカーに就職。30歳で帰郷し、緑翠亭 景水に入社。2011年に大町青年会議所の副理事長。現在は大町の食のプロジェクトにも関わる。2015年5月より現職。