佐藤大史・アラスカ撮影紀行㊤

「地球を感じてもらいたい」

穏やかで優しい顔をしたきょうだいだな―。そう思ってシャッターを切ったのを覚えている。7月10日ころ、米国アラスカで出合ったグリズリーの、授乳後のリラックスした瞬間を切り取ったものだ。どう猛なイメージのグリズリーだが、地域によるものの、食べ物の8割近くは草やベリーなどで、こちらが過度なストレスを与えない限り襲ってくるようなことはまずない。とはいえ熊の取材中はかなり気を張っているのだが、愛くるしい表情には、ファインダーをのぞいていても頬が緩んだ。
「地球を感じてもらいたい」という思いから起こしたプロジェクトは4年目。毎年夏には数カ月、一人でアラスカへ撮影遠征に行っている。この夏撮ってきたばかりの写真を3回にわたって紹介する。
(佐藤大史・写真家・安曇野市在住)

なぜ、アラスカを目指すのか
手付かずの世界追い求めて4年

世界地図を広げて日本から右上に指をなぞると、ロシアと北米大陸の間にベーリング海峡があり、アラスカはその右側にある。そこには果ての見えない広大な大地が広がっており、面積は日本の約4倍もあるにもかかわらず、人口は80万人程度。
ここなら悠久の時を感じるような、手付かずの世界が残っているに違いない。そう思い撮影プロジェクトを始めたのが3年前。誰もいない原野の中、ザックを2つ背負って自分の足で歩く。そして、電池や食料が尽きると街に戻る。そのスタイルで撮影している。
アラスカは南北にも長いため、ツンドラや山岳地帯、タイガなど緯度によって様相はさまざまだ。また、夏至の頃には24時間太陽が沈まない「白夜」という現象があり、白夜が終わり「夜」がくるようになると、空にはオーロラが舞う。その空の下をグリズリーやムース、カリブーやオオカミなどが闊歩(かっぽ)している。
そんなアラスカを飛行機から見下ろすとき、その無限の広がりには恐怖すら覚える。道も指標もないからだ。遠征中は、ただ地図とコンパスを頼りに、生き物の気配を追う日々。その一歩目を踏み出すにはいつも勇気がいるのだが、気付くと涙しているような美しい瞬間に出合うには、確固たる思いと覚悟が必須なのかもしれない。そう思わされる経験は何度もあった。大自然の中にいると、安曇野で暮らしている時には思いもよらないような出来事に出合うことが多い。
私は写真は加工しない。流れている風景のそのままを、次世代にも胸を張って伝えたいからだ。体に入れる物と同じように、目に入れるものもできるだけ自然なものであってほしくはないだろうか。
手付かずの大自然とそこに生きる生き物たち。はるか昔から紡がれ、そしてこれからも続いていくであろう彼らの物語を、私は人生を懸けて伝えていきたいと思っている。
(次回は28日掲載予定)

【プロフィル】
さとう・だいし 1985年東京生まれ。日本大芸術学部写真学科卒。写真家・白川義員さんの助手を務め、2013年に独立。11年から安曇野市に本拠地を置き、主に国内外の大自然の中で撮影している。MGプレス「クローズアップ」の写真も撮影。
(佐藤大史)

投稿者: mgpress