佐藤大史・アラスカ撮影紀行オーロラ編(下) 凍る大地に飲み水を求めて

9月後半から10月上旬にかけ、米アラスカで北極圏の原野の中を歩いた。気温は昼間は10度近くまで上がるが、夜にはマイナス十数度まで下がるので、細い川はもう凍り、ツンドラの大地も凍って昼間はシャーベット状になっていた。今回の遠征では、飲み水の確保に苦労した。
そうした気温の中だが、50キロ近い装備と機材を背負っていることもあり、ゆっくり歩いても汗は止まらない。風に吹かれ続けたことも重なり、ずっと喉が渇いていた。谷を何本渡ったころだろうか、凍った小川を見つけた。氷の表面がきらめいている。よく見ると氷の表面にわずかだけ水が流れている。20~30センチほどの厚さの氷の下ではまだ水が流れており、氷の間隙(かんげき)を縫ってその流れが漏れ出ていたのだ。

水のない季節風との戦い
畏怖と恐怖不安が募る

今回の遠征で飲み水の確保が大変だったのは、川は凍っているのに雪もそんなにない、曇っても雨は降らない、という極めて液体の枯渇する季節だったからだ。その環境は、数年前の真冬のカナダを思い出させた。液体は全て凍りつき、湿度も0%。気体と固体しかない、なんだか音も消えたような異様な世界だった。
あの時の畏怖と恐怖が思い出され、久々に芯まで不安感に包まれた。その不安は遠征の序盤はなかなか拭うことができない上に、脱水症状になるなど大変な思いもしたのだが、それよりも、前述の川ともう1本、凍っていない川に出合った時の感動の方が忘れられない。私の持っている水のボトルやパック全てに水を入れると一転、今度は充足感と安心感でいっぱいになった。ザックはさらに重くなったわけだが、意気揚々と歩を進めることができた。
歩くこと6日目、いよいよ遠征の核心部に入る。そびえるような岩場を登り、一気に700メートルほど標高を上げ稜線(りょうせん)を目指す。蓄えた水を含めると50キロを超える装備を背負って岩場を登ることは危険なので、機材と食材の一部と三脚1本を中腹に置いて登った。岩場には私が横たわれるほど大きな岩でもグラグラと不安定なものが多く、生まれたての子羊のように情けない格好になりながらも、1日かけて稜線に到達した。
そこには風速20メートル前後の暴風が吹き荒れていた。岩陰に隠れると右ではゴーゴーとうなるように、左ではヒュンヒュンと鋭く風が鳴っていて、一度隠れたら出るのに勇気が要った。空を見上げると天気は悪くない。オーロラは撮れそうだ。タイムラプス(連続撮影した静止画をつなぎ合わせる動画)もいけるかな。そう思ったが、いかんせん風が強い。設置しても三脚ごと飛ばされてしまう。風との攻防の末、三脚にいくつも岩を立て掛け安定させたのだが、毎日吹き続ける暴風には心身ともに消耗させられた。

体力と経験値全てぶつけて

おまけに少し前から腕時計が動かなくなり、日記を細かく付けないと時間どころか日付もわからなくなる。テントも一度飛ばされるなど、ハプニングは絶えず、20日間だけしか原野にいなかったにもかかわらず、自分の体力と経験値の全てをぶつける遠征となった。来年の遠征に向けて課題も残ったが、今しばらくは貴重な体験や写真たちをどのような形で皆さんに届けていくかに頭を悩ませたい。
稜線から撮影したタイムラプス動画も見ていただきたい。(https://youtu.be/0Afk8NkrXbY)

(佐藤大史・写真家・安曇野市在住)

投稿者: mgpress