漆芸 新たな表現に挑む 橋本遥さん

「シンビズム2」で作品展示

すらりと伸びた女性の脚の作品「悪い夢」。右足にはかわいらしいパンプスを履かせ、左は筋肉や血管を蒔絵(まきえ)で浮き上がらせた。椀(わん)や箱など、美しく彩色された伝統工芸品が多い漆芸に、こんな表現があったのかと新鮮な驚きを感じる。
漆芸作家・橋本遥さん(34、埼玉県)の作品だ。24日まで県内4会場で開く現代作家の展覧会「シンビズム2信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち」の豊科近代美術館(安曇野市)に展示している。
東京芸大在学中に“お試し”で製作した漆芸で造形的な魅力に目覚めた。その後、漆器産地・木曽平沢(塩尻市)の漆職人と出会い意識が変わる。木曽平沢の空き家を借り埼玉と行き来しながら漆芸に携わる橋本さん。「漆を塗る意味」を模索している。

“漆を塗る意味”問いながら 芸術と実用品 バランス良く

「シンビズム2信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち」は、県内の学芸員有志25人が選んだ県ゆかりの現代作家20人の作品を4会場で紹介。絵画や空間展示、造形など、現在進行中の信州の美術を感じることができる。
橋本遥さんは約30点を展示。中でも目立つのは、漆黒に浮かび上がる螺鈿(らでん)の花模様、塗りを施され、脱活乾漆技法で作られたどくろだ。頭頂部には脳みそが。その中には小さな虫のようなものが見える。これらは蒔絵で表現された世界。薄気味悪さと美しさが同居するさまは、この上なく魅力的だ。
「ちょっと気持ち悪いものでも、蒔絵を施すときらきらして“きれいだな”と思ってしまうでしょう。漆の技法を施すことで、自分にとって興味のあるものをさらに特別なものにしたい」と橋本さん。
一方、「漆を扱う以上は、実用的なものを作れなくてはいけない。見るものと日常使いのものをバランス良く作りたいのです」。会場には造形作品だけでなく、スプーンや箸、カップといった生活雑器も並ぶ。

職人と出会い「産業」を意識

山梨県生まれ。ものづくりが好きで東京芸大美術学部工芸科へ。当初は金属工芸に進もうと思っていたが、しっくりこなかった。
軽い気持ちで漆芸に目を向け、女性の顔と漆塗りを融合させた作品を制作。造形的に自由度があることや、金属のような質感にもできることに可能性を感じ漆芸を選んだ。
4年生だった2007年、研修旅行で木曽平沢を訪れ、漆器職人と出会う。「それまで造形のための素材だった漆が、産地では職人が自ら採取し、精製し調合してつくる産業だった。その奥深さや、手作業で大量に作れる技術に感動しました」。同時に産業が低迷していることも知った。
産業を守るために実用品が作れないと、漆芸をやる意味がないと意識が変化。平沢で元漆器職人の住居だった空き家を借り、埼玉から通いながら本格的に創作活動を開始。現在は同大美術学部で非常勤講師を務めながら、産地で関心を持つ人を増やしたいと、松本、塩尻、安曇野で漆芸教室を開いている。

これまで作品を展示することは積極的にせず、年に1度、グループ展に誘われて出す程度。生活雑器としての漆芸を知ったことで、芸術表現で見せることに迷いがあったという。
だが、今回の参加は「どんなものを作っているか、どんな考えで漆芸に携わっているか、『今の僕はこうです』と、長野の皆さんに示せる機会になった」という。
また、大学在学中に制作し漆芸に進むきっかけになった作品「MASK(マスク)」を見て、素直に表現を追求していた当時を思い出し、「今の自分だったらどんなものができるか挑戦してみたい」。新たな創作意欲も湧いた。
「漆芸はものに“美しさ”という付加価値を付けること。それには無数の表現方法がある」と橋本さん。職人から学んだ“漆を塗る意味、使う意味”を大切にしながら、自分なりの形でその魅力を伝えていく。

◇メモ
【シンビズム2信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち】県と県文化振興事業団主催。豊科近代美術館(安曇野市)、丸山晩霞記念館(東御市)、辰野美術館(辰野町)、須坂版画美術館(須坂市)で24日まで開催。入場無料。休館日は各館によって異なる。

(井出順子)

投稿者: mgpress