ママさん職人2人 時計店で技術学び修理士として奮闘

木曽町福島の若狭紀美子さん(37)と、安曇野市穂高有明の監物(けんもつ、●監の臣のとなりノに二がケ)初美さん(37)は、まちの時計屋さんで時計修理に奮闘する女性の職人だ。機械式時計の修理技能資格認定制度「信州匠(たくみ)の時計修理士」の1級を持つ。制度を運営する県時計宝飾眼鏡商業協同組合(事務局・茅野市)によると、メーカー社員以外で女性の1級合格者は県内でこの2人だけという。
偶然、同い年で子育て中。家事や育児の傍ら、高度な技能が求められる資格に挑んできた。1級の養成講座で知り合った2人は、頻繁には会えないが、互いの存在は心強い。
組合の中澤國忠理事長(78、同市)は「家庭と仕事を両立し、子育てをしながら高い技術を学ぶ姿を誇りに思う」と話す。

育児の情報交換も 心強い仲間

若狭紀美子さんは時計や眼鏡、補聴器を扱う「アイショップコマツ」(木曽町福島)の4代目。「信州匠の時計修理士」のほか、認定眼鏡士、郡内で唯一の認定補聴器技能者として活躍。8歳、6歳、2歳の3女の母親だ。
「匠―」への挑戦は05年、3級から。結婚や2年ごとの出産など多忙な生活の中、10年かけ34歳で1級に合格。共に働く時計修理士で「信州の名工」の父・賢自さん(73)に刺激を受け、難易度の高い資格を取りたかったという。
3人姉妹の末っ子。幼い頃、父の姿をまねてドライバーを持ち、ドアノブのねじを動かした。一般企業に就職するつもりで短大に進学したが“自分の代わりはいない”家業で頑張ってみたいと東京の眼鏡専門学校で3年間学び家に戻った。
店には補聴器の相談に来る高齢者や、「メイドインジャパン」の眼鏡を求めて立ち寄る外国人観光客、「ここならきちんと直してくれる」と名古屋から訪れる人も。仕事の奥深さにやりがいを感じ知識や技術を磨く毎日だ。
「木曽に人が来てくれるような店づくりをしていきたい」と、今年6月には「メガネリトリート」と銘打ち、眼鏡づくりと町内の観光ツアーを合わせた1泊2日の催しを開き2人が参加。今後も行う予定だ。
夫はここ9年間、単身赴任中。家では3人の子育てを一人で担う。監物さんは育児の情報交換もできる心強い仲間だ。
娘の奮闘に賢自さんは「『匠』の勉強を通していい仲間ができた。地域の人への感謝を忘れず、信頼に応える努力を続けてほしい」と話している。

監物初美さんは実家の時計、眼鏡などの販売店「イヴエルマルヤマ」(安曇野市穂高)で働く。
時計は身近すぎた環境だったので、別の仕事に就いていたが、26歳のころに転機が。ドイツの時計メーカーの機械式時計を取り上げたテレビの特集番組を見て、奥深さに引き込まれ、修理職人の高齢化が進む状況を知った。機械式時計は小さなパーツが組み合わさる小宇宙が広がり、メンテナンスや修理によって半永久的に使える。わくわく感が湧き上がって時計修理の道を志し、近くの時計関連の企業で働きながら「匠-」の養成講座に通った。
「匠-」の講座内容は高度で「場違いだ」とも感じたが学びたい気持ちは高まり続け、28歳で3級、30歳で2級に合格。1級への挑戦は長女出産後間もなくスタートし、32歳で合格を手にした。長女あずみさん(7)は「細かいの(部品)がいっぱいあるのにすごいと思う」と、母の背中を近くで見ている。
母になって気付いたことがある。娘の心拍音と、機械式時計が刻む音に通じるものを感じ、「人間の『生きる』と時計の『動く』が重なった気がした」。
家族の形見、親族に買ってもらった時計…。修理に持ち込まれる時計には、それぞれの歴史や物語がある。だからこそ、元気にして手元に戻したい-。半年以上かかった修理品もあったが、再び動き始めた時の喜びは大きい。「あそこに行けば何とかなるという信頼を得られるよう技術を高めたい。オールマイティーな若狭さんとは対照的に、私は時計修理1本。子育ての先輩で、話の合う間柄です」

【信州匠の時計修理士】県時計宝飾眼鏡商業協同組合(事務局・茅野市)が、次世代の修理士育成を目的に2004年度から行う機械式時計の修理技能資格認定制度。県の技能評価認定制度の第1号認定。国家資格の時計修理技能士よりも難易度が高いと言われ、3~1級、A級、特級があり、本年度までに全国に累計280人(うち1級は40人)の認定者がいる。1級認定者はたいがいの機械式腕時計の修復ができるレベルとされる。
(井出順子、青木尚美)

投稿者: mgpress