[創商見聞] No.36 後藤 洋成 (南のうお座)

柔軟な発想で〝昼飲み〟の店、開店

―信州にIターンしたきっかけは

 Iターンしたのは25年前です。当時は東京にいたんですが、Iターンの求人雑誌を見て、信州新町(現長野市)のジンギスカンの会社で牧場の仕事があるのを見つけて応募しました。当時はIターンがはやっていて、同期は8人いましたが、1年後には私一人しか残っていませんでした。

―その後、大町市に移住。

 開店までの経緯は 信州新町で住んでいた公営団地を退去しなければならなくなり、住まいを探していたら、ちょうどいい物件が大町にありました。若いころヨーロッパやアジアを中心に世界のいろいろな国を回ってきましたが、北アルプスが眼前に広がる大町の素晴らしい景色は世界にもなかなかない。「ここを、ついのすみかにしよう」と決めました。 平日休みだったので、会社の同僚と大町の街中に出て酒を飲もうと思ったら、昼間から開いているお店がなかった。「ないなら、自分で作ろう」って、そんなノリなんです。 物件を探していたら、私も飲みに行っていた大町名店街の居酒屋のオーナーが店をやめるので、誰かやってくれる人を探していると聞いて、貸してもらえることになったんです。 開店するに当たっては、借り入れなしでやろうと考えていましたから、極力お金をかけたくなかった。居抜きで、設備もそのまま使わせてもらい、改装もしていません。 営業は午後2時から。店はカウンター6席、窓際に2席とテーブル席。立ち飲み屋ですが、通常は椅子席もあります。イメージは若いころヨーロッパの旅先で入ったバルです。ビールや洋酒だけでなく、日本酒ほかお好きなお酒を気軽に飲んでもらいます。

―利用した商工会議所の支援等は

 店をやるとは決めたものの、知り合いはまったくいない、どうしていいかも分からない。とりあえず情報を仕入れてこようと、昨年10月に初めて商工会議所に相談に行きました。 店をやるのは初めてだし、大町の状況も分からなかったので、いろいろ相談に乗っていただき助かりました。市の空き店舗活用事業補助金で家賃補助も受けられ、おかげさまで、店をオープンすることができました。

―発想が柔軟で、無理がない

 ずっとサラリーマンでしたから、商売は素人。とにかく一人で全てやらなければいけないので、後々大変な思いをしないようにしようと、東京まで講習を受けに行き、売り上げ管理を自動的にやってくれるPOSレジアプリ「エアレジ」を導入しました。また、キャッシュレス時代に備え、カードやQRコード払いに対応する機器も申請中です。 これからは、店の情報を発信するために、フェイスブックやインスタグラムなどを勉強していく予定です。SNSを使って、地元の人だけではなく、観光客にも発信していきたいですね。二十数年前、バックパッカーとして世界を旅していたとき、情報を得るのは本当に大変だった。それに比べれば、今は瞬時にあらゆることが分かる、いい時代ですね。

―今後の展開は

  海外をあちらこちら回ったときの写真を、店内のモニターで映そうと考えています。そこから、お客さまとの会話が広がったり、店の一つの特徴につながればいいかなと思います。 店名の「南のうお座」は、実際にある星座の名前。あらゆる星座の中で唯一、酒を飲んでいる星座なんです。私の解釈では、女神の化身の〝さかな〟が、水瓶(みずがめ)座から流れてきた神の酒を飲み、酔っぱらっていいご機嫌でいる―。神様でさえ飲んで酔っぱらうお酒って、いいなって。 昼飲みの店ですから、土日など休日がメインになるでしょうね。地方都市では、昼間から酒を飲むのは後ろめたいという人も少なくないかもしれません。そんな意識が払拭(ふっしょく)できるような店にしていきたいですね。

【ごとう・ひろなり】 58歳、広島市出身。大学卒業後、観光バス会社に勤務。退職し、バックパッカーとしてヨーロッパを回る。帰国後、食品会社に勤務したが、退職してアジアを旅する。25年前に信州新町にIターンし、ジンギスカンの会社に就職。10年前に大町市に移住。今年4月、同社を退職し、大町名店街に立ち飲み居酒屋「南のうお座」をオープン。