松本の夜に「流し芝居」 市内の飲食店などをにぎわす

今、松本市内の飲食店などに夜な夜な「流し芝居」がやってきて、市民の度肝を抜いている。「旅の途中」というちょんまげ姿と日本髪姿の2人組が10分間しゃべり倒し、居合わせた人におひねりをもらって、風のように去っていく。
役者は男女それぞれのペア。前田斜めさん(28、筑摩)とマサさん(35、同)の男性組は昨春に続き2度目、成田明加さん(34、渚)と水野安実さん(31、里山辺)の女性組は初の流しだ。
「音楽や漫才でできるなら芝居でもできるはず」と始めた「国内でも恐らく例がない」(前田さん)流しの芝居。今年は東京など県外でも決行する。
口を開けたまま固まる人、腹を抱えて笑う人、写真を撮りまくる人…。遭遇した人はそれぞれの“忘れられない夜”を味わっている。

時代や文化交錯 不思議な空間

「度胸に感心」「元気もらう」
流し芝居初日の4月1日午後6時すぎ。松本市白板の純喫茶ピーナッツの扉がいつもと変わらぬ音を立てて開くと、ピンクのジャージーをはいた日本髪姿の“かかあ”がトロンボーンをしずしずと鳴らして入ってきた。
後に続くちょんまげ姿の“だんな”が「本日お集まりのいずれさまにも…」と口上を述べて投げ銭芝居の始まりを一方的に告げると、プリンセスプリンセスが平成元年に放ったヒット曲を熱唱。店内は時代や文化がまぜこぜの、不思議な空間に一変した。
店に来たのは成田明加さん・水野安実さんペア。芝居は旅の途中の分かれ道で進む道を迷う夫婦の掛け合いで構成。言葉遊びのようなやりとりの中に「迷わず先に進めばいい、どっち行こうが関係ない、行けば何かが落ちている」など、観衆の背中を押すようなメッセージが紛れ込む。
10分間まくしたてた2人は終演後、無事おひねりを獲得。自転車にまたがると、小雪舞う街に消えていった。
2人が去った店内では、居合わせた客4人が大盛り上がり。神林里実さん(46、島内)は「あっけにとられて内容は頭に入ってこなかったけど、スカッとした」と大満足の様子。
おひねりに千円札と間違えて五千円札を投じてしまった柳澤茂さん(42、安曇野市明科)は「中毒性がある。思い返すといろいろ突っ込み所があって、再確認したい欲求にかられる」と笑った。

同じ日の午後7時半。同市鎌田の個人宅に前田斜めさん・マサさんペアが現れた。岩原亥佐男さん(71)夫妻や長男家族など、9~90歳の総勢10人が囲む夕食の席で、2人は女性陣と同じ服装で同じ演目を披露。食卓に強烈な一品を添えた。
岩原家では昨年も上演。孫の夏美さん(11)、歩さん(9)姉妹は「意味はわからないけど、最高におもしろい」。友達の藤本理子さん(11)、茉子さん(9)姉妹は「芝居は劇団四季しか見たことがなかったから、あまりの違いに驚いた。最初はなまはげに出くわしたような感じで怖かったけど、楽しかった」。亥佐男さんは「すごい度胸。元気をもらえるし、応援したくなる」と目を細めた。

週2~4日30日まで実施

流し芝居は週2~4日のペースで実施。各組一晩でおおよそ4軒ずつ回る。基本的に店の許可を事前に得て行うが、アポなしも決行。今年は昨年の倍となる120カ所を回るのが目標だ。
マサさんはミュージシャン、他の3人は昨秋結成した野外人形劇団のらぼうの団員。4人とも自営業や会社勤めをしながらそれぞれの表現活動をしてきた。
今年は女性陣が「やりたい」と進言。昨年、上演を断られたり芝居をしても見てもらえなかったりなど苦い経験を重ねた男性陣の話を聞いた上で、強い覚悟で挑んだ。
ところが、ふたを開けたら反応は各所で温かいようで、「昨年の男性組の功績は大きい」と成田さん。「『店で飲んでいると流しの芝居が来ちゃう街、松本』みたいになればおもしろい」。前田さんは、初日に訪れたゲストハウスで約20人が待っていたことに感慨深げ。「いろんな表現に触れてほしい。現実と虚構のはざまを楽しんで」と話した。
30日まで。日程はツイッターで発信(「流し芝居part2」で検索)。12日夜は松本城の花見客に披露する予定。出演依頼は前田さん電話080・6425・9861かメールgekidannorabou@gmail.com

(松尾尚久)

投稿者: mgpress