松本今井地区「1日限りのそば店」で成果発表

昔からそばを打つ習慣があったという松本市今井地区。手がける人が減ってきたものの、若い女性たちのそば打ちがひそかな“ブーム”になっている。
「いらっしゃいませ」と客を迎える女性たちは、今井公民館の「若妻そば打ち講座」の受講生。発表会食会として3月に開いた、1日限りのそば店は大にぎわいだった。
「そば打ち」にはまった伊藤恵美子さん(44)らが呼びかけて開講した同講座は3年目で25人が受講。仲間と励まし合い、先輩が後輩を指導するつながりは「まるで部活」「そば部だ」という盛り上がりだ。

伝統受け継ぐ修業の輪広がる

今井農村環境改善センターで開いた「1日限りのそば店」は、公民館講座の発表会とはいえ、そばを打つのは食堂などに提供する腕を持つ「若妻」たち。「蕎麦(そば)のつながりは人のつながり」の文字を背中に入れたピンクのポロシャツでそろえ、「そば部」らしく円陣を組み、ときの声を上げてスタートした。
テーブルの横にそば打ち台を置き、次々にそばを打ち、切っていく女性たち。新人の受講生たちも、そばをゆでたり運んだり、注文を受けたりと大忙しだ。
訪れた人たちは「私らも昔はさんざ打ったね」「暗い所で正座して打つもんだと教わったが、こんな明るくてにぎやかい所で、立って打つんだねえ」と、昔を懐かしみながらも「今どき」の姿に驚く。
「機械で切ったかと思うほど、きれいだね」と味わう客の横では、「どこの嫁さんだい」「ああ、あそこんちか。おじいちゃんは元気かい」と運んできた女性と会話が始まるテーブルも。

平日に開講 段位取得も

今井地区のそば打ち文化を継承しようと、公民館が20年ほど前から農閑期にあたる1~3月の日曜日、「こだわりのそば打ち講座」を開いている。講師は自宅でそば道場「大瀬庵」を開く大瀬渡さん(70)ら、地域のそば打ち名人たちだ。
2016年、伊藤恵美子さんは「素人のそば打ちの段位を取った」というママ友の話に興味を持ち、講座に参加。しかし「日曜日だから学校も保育園も休み。子どもを家族に預けて出るのは気が引ける」と継続参加を断念。それでも「育児や部活の送迎など、日曜は出づらい主婦は多いが、健康食と言われるそばを自分で打ち、家族に食べさせたい人も多いはず」と大瀬さんや公民館に直談判。知人らに声をかけて人を集めて翌年、農閑期の平日、昼間に「若妻そば打ち講座」を開講。11人が参加した。
講座終了後も伊藤さんら5人は大瀬庵に通って腕を磨き、一般社団法人全麺協が主催する「素人そば打ち段位」に挑戦。全員が初段に合格した。
翌年の講座は15人が受講。新たに6人が大瀬庵での「修業」に加わり初段位に、伊藤さんらは2段位に合格した。今年の講座は25人が受講。伊藤さんら1期生は講師となり、受講者を指導している。
公民館での講座をきっかけにそば打ちにはまり、大瀬庵で修業を続ける伊藤さんたち。セイジ・オザワ松本フェスティバルのそばパーティーでのそば打ちやお運び、松本そば祭りのそば提供、姉妹都市の神奈川県藤沢市とそば打ち交流など活動は徐々に増加。6人が道の駅「今井恵みの里」のそば打ち実演にも立つ。経験を積んできた伊藤さんが「妄想だけど、若妻のみんなと一緒に、そばで人前に出る機会を作りたい」と大瀬さんに伝えると「それは俺の妄想でもある」と一言。そこから今回の催しが実現した。
「そば打ち人口が増え、地域の伝統が受け継がれてほしいと思っていたが、彼女たちのパワーはすごい。彼女たちが意識していなくても、結果的に地域の活性化にもつながっている」と大瀬さん。「実はそばよりうどんの方が好きで、そばは食べるより打つのが好き」という伊藤さんも「そば打ちは奥が深く、自分と向き合うことで向上していくことも魅力。1人でも多くの人に知ってほしい」と熱を込め、3段位の取得とそば打ち仲間を増やすことを目指す。

(上條香代)

投稿者: mgpress