本と人を結ぶ場に 信大前の旅行代理店内に書店

信大松本キャンパス(松本市旭3)の目の前にある旅行代理店「コスモツーリスト松本支店」(桐2)内に、一風変わった書店がある。名前は「本屋宇宙旅行」。内なる旅を提案する本屋だという。
出店者は松本地方などに住む学生や社会人9人。主に大学生に向けた本を取りそろえ、無人販売する。人生を変えるような1冊に出合ってもらえたら-。出店者はそんな思いを込めて選書する。企画者は新潟市の現代美術家、西田卓司さん(44)。本に関するイベントを開く「ツルハシブックス」の主宰者といえば、本好きにはピンとくるかもしれない。
うわさを聞き付け、学生だけでなく、会社員や高齢者などさまざまな人が、店に足を運ぶようになった。小さな旅行代理店が本と人、人と人を結ぶ場になっている。

個性ある選書で内なる旅へ

旅行ポスターがところ狭しと張られた店内の一角に、9つの正方形の本棚が立体的に組まれている。その下には雑誌など大きめの本もずらり。小説、エッセー、実用書、美術本、写真誌など幅広いラインアップだ。
「コンプレックス文化論」「くうねるのぐそ」「煩悩リセット稽古帖」「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」など、タイトルだけで心引かれる本がひしめく。
出店者の一人、森有紗さん(28、塩尻市大門)は、プリンター製造のプログラマーとして働く。個性豊かな高校生チームがロボットコンテストに挑む「ロボコン」や、キスをしやすい男女の身長差を三角比で求める方法など楽しい数学ネタを集めた「笑う数学」など、理系ならではの選書だ。
一方で森さんは、塩尻市木曽平沢でコーヒーを振る舞う街づくり活動もしており、コーヒーに関する本もセレクト。「『学生の人生を狂わせたい』と全力で選んだ。本をきっかけに自分の中にある何かを発見し、行動に移してもらえたらうれしい」と目を輝かせる。

偶然の出会い 生み出す装置

企画した西田卓司さんは、「ツルハシブックス」の主宰者。新潟市で構えていた小さな書店を2016年に閉店してからも、本に関わるイベントを続けている。つながりをきっかけに、これまでにない意識を目覚めさせ、新しい「ものの見方」を引き出す「リレーショナル・アート」に取り組んでいる。
2014年秋、コスモツーリスト松本支店内で開かれた本のイベントに参加した西田さんが、元喫茶店だった店の雰囲気と大学前という立地から、「ここで学生に向けて本を紹介できたら」と着想。松本地方の知り合いに声をかけて出店者を集めた。
芝田真起支店長(51)によると、1月下旬の本棚設置以来、旅行目的で来店した学生が本棚に目を留めて、「旅先で読んでみる」と言って買っていくという。最近は、うわさを聞き付けた大人が本棚を目的に来店することも。「旅と本は相性が良い。ここで本を買った人が、『旅に出たくなった』と来店してくださったら話が弾みそう」と笑顔だ。
「本屋宇宙旅行は『偶然の出会い』を生み出す装置」と西田さん。「人は時として偶然の出会いに『運命』を感じ、行動をおこす。そしてその行動が若者に自信を与え、思考を前向きにし、人生を変えていくんです」

本棚を通して 人とつながる

4月13日に店内で開いたオープンイベントには出店者4人を含む12人が県内外から参加。「内なる旅のはじめ方」をテーマに、出店者の思いを聞いたり、本への思いを語り合った。
「『本を読むのに気持ちがいい公園マップ』を作るワークショップを開いたら」など、参加者の間でさまざまなアイデアが生まれ、本棚をきっかけに新たな展開が生まれそうな予感も残した。
友人が出店している縁で参加した松本大教育学部2年の藤松彩絵さん(19、安曇野市豊科)は「今までは家や図書館にこもって本を読んでいたが、本を通して人とのつながりができる初めての経験をした。とてもおもしろかった」と笑顔。信大医学部保健学科4年の正林愛花さん(23、松本市北深志)は「本や人との出会いが視野を広げ、人生を導いてくれるとあらためて感じた」と話した。
本棚の設置期間は6月末までがめどだが、出店者も店も継続設置に前向き。営業時間は午前10時~午後7時(土曜日は2時まで)。日曜・祝日定休。電話0263・87・6017
(松尾尚久)

投稿者: mgpress