島々で蔵改装したカフェを 移住者が再生プロジェクト


松本市安曇の島々谷に住む山口ひろきさん(52)が、自宅の敷地にある江戸時代末期に建てたとみられる蔵を改装し、来春にカフェを開こうと動き出した。島々は、かつて上高地へ続く徳本(とくごう)峠の入り口として栄えた宿場。「島々谷の土蔵リノベプロジェクト」と銘打って、蔵の改装を手伝ってくれる人を広く募集している。
東京から移住し、昨年、古い民家を改装して住む夢をかなえた山口さん。昔ながらの集落に入って大丈夫だろうかと心配していたが、地元の人に歓迎され、助けてもらった。暮らしているうちに「人が集まる場所を作りたい」「山岳史に残る歴史ある場所を知ってもらいたい」「登山者の助けになる場所に…」と、次々とやりたいことが浮かんだ。蔵再生プロジェクトは、その一歩目だ。

地域の助けに何かを返したい
山口さん夫妻 松本市・島々谷の土蔵リノベプロジェクト

住民や登山者が集えるカフェに

松本市安曇の島々谷で山口ひろきさんが暮らすのは、土蔵が二つある築30年ほどの家。白と黒の壁で蔵に似た外観の家で、山に行った帰り、偶然目に入り印象に残っていた。売り家の情報を見ていたら…。妻のともこさん(46)と「あの家じゃない?」と、業者に連絡してすぐに内覧、購入を決め、昨年10月から住み始めた。
二つある土蔵のうち、一つを地域の人や登山者が集えるカフェにすることを計画している。本業は電気工事。1人でこつこつとリノベーションする予定だったが、蔵の大梁(おおばり)に「文政12年」(1829年)の文字を見つけ、「日本の山岳史に残る土地にある、190年前の貴重な蔵を独り占めするのはもったいない」と「島々谷の土蔵リノベプロジェクト」を立ち上げた。初回は7月13日。まずは土蔵内の掃除とケヤキの王扉の修繕作業から始める。

山口さんは静岡県で生まれ、長野県などで育ち、東京で働いた後、2000年に松本に移住した。その頃から山登りやアウトドアを本格的に楽しむようになり、北アルプスの麓の古民家に住みたいと思っていた。
いざ住むとなると、みんな親戚みたいな所に自分たちが入って大丈夫だろうか…、そんな心配が頭をよぎった。が、「50歳を過ぎた自分らを『若い人が来てくれてありがたい』と喜んでくれた」と苦笑する。
地域の人がいろいろな話を聞かせてくれ、畑で取れた野菜を持ってきてくれる。一方で若い人が出て行ってしまい、高齢化が進んでおり、地区に飲食店はない。「周りに助けてもらうばかり。自分たちは何を返せるのか…」と考え、まずは玄関先にテーブルと椅子を置き、休憩所を作った。
次に考えたのは、みんなが集える飲食店だ。この地区には歴史がある。「昔の話、おいしい漬物の漬け方、地区の人が持っている知恵は絶えると戻らない。住んでいる人みんなに語り部になってもらいたい」との思いが膨らんできた。近所の人がお茶を飲んでいる時に、登山者が来て、交流できるのが理想だ。
蔵のしっくい壁には、鏝絵(こてえ)として前の持ち主の屋号「満寿屋(ますや)」が残っていた。それを使いたいと地元の人に相談すると「名前が残る」と喜ばれた。
母屋の道から見える所には、山関連の小物をディスプレーした。いずれは、ちょっとした登山の道具を販売したり、ポールが壊れた、アイゼンやピッケルを研ぎ直して|などの要望に対応する何でも屋、登山者のベースキャンプ的な場所になればと考えている。
かつて北アルプスに登る登山家が通った徳本峠だが、今はこのルートで上高地へ向かう人は少ない。「登山ブームで、どこの山に行ってもたくさんの人に会う。ほとんど人と会わずに黙々と歩く徳本峠は、数少ない面白いルートだと思う」と、ともこさん。峠の入り口から100メートルほど外れるため、満寿屋まで人の流れをつくるのが課題だ。
もう一つの土蔵を宿泊できる場所にしようか…。あれこれ考えるのが楽しいと山口さん夫妻。「北アルプスのお膝元に家を持ったのに、したいことがありすぎて移住してから登山に行けてないんです」と笑いながら、夢の続きを実現させようと奮闘中だ。

作業参加者募る初回は7月13日

7月13日は午前9時から。土蔵やDIYに興味がある人、山が好きな人、各分野の専門家など誰でも参加できる。場所は島々郵便局前。持ち物はマスクやタオル、手袋など。お礼はお手製の昼ご飯と休憩の時のおやつ。駐車場利用や、食事の準備のため参加したいという人は事前に連絡を。

(田原利加子)



投稿者: mgpress