酒業370年の老舗 湯川酒造店 「木祖の酒」追求 純米大吟醸受賞

標高936メートル、「日本でもっとも星に近い酒蔵」をうたう木祖村薮原の湯川酒造店で2018─19年シーズン(18酒造年度)に醸された純米大吟醸酒が、高い評価を受けている。
国内最大の市販日本酒品評会「SAKE COMPETITION(サケ・コンペティション)2019」(6月)で、県内の蔵としては初めて、純米大吟醸部門の上位10銘柄が選ばれるゴールド(8位)を獲得。全国新酒鑑評会(5月)でも、金賞を受賞した。
来年、酒業370周年を迎える老舗。8年前から経営のかじ取りをする16代当主、湯川尚子社長(39)の下、「木祖だからこそ生まれる酒」を追求してきた。
(松尾尚久)

酒造りに厳しい環境を強みに
純米大吟醸が高評価 湯川酒造店 木祖村

県内初の受賞大きな自信に

高い評価を受けたのは、兵庫県加東市東条地区の山田錦を精米歩合35%まで磨いて造った「木曽路純米大吟醸山田錦磨き35」。720ミリリットル6000円、1.8リットル1万2000円(税別、箱入り)。湯川酒造店が誇る高級酒だ。
歴史のある全国新酒鑑評会では、醸造アルコールを添加する大吟醸酒が金賞を取る傾向にある。アルコールを加えると味のきれが良くなり、フルーティーな香りを調整できるなど、味のバランスを整えられ、官能評価を得やすい。
一方、純米大吟醸は米と麹(こうじ)だけで造る、調整ができない酒。米のうま味やこく、ふくよかな味わいなど、大吟醸にはない魅力がある一方、飲み口が重たくなったり、後味がもたついたりすることも。同社は経験や知識を生かしてバランスよくまとめ、金賞につなげた。
純米大吟醸の出品は初めて。「消費者ニーズが純米酒に移っている。うちの今の技術力を試したかった」と湯川尚子社長。「大きな自信になる」と喜ぶ。
2012年から始まったサケ・コンペティションは、消費者の目線が重視される品評会。世界から1919点が出品し、純米、純米吟醸、純米大吟醸、吟醸など7部門で審査された。
ここで高評価を得ると知名度は一気に全国区。純米大吟醸部門ではこれまで、十四代(山形県)、獺祭(だっさい、山口県)、寫樂(しゃらく、福島県)など名だたる酒がゴールドを受賞してきた。
県内酒蔵のゴールド受賞は全部門を通じて初。「『1年きり?』と言われないよう、19酒醸年度もいい酒を造らないと」。尚子さんの夫で杜氏(とうじ)の慎一さん(51)は表情を引き締める。

売れる酒より木祖らしさを

同社は1650年創業。尚子さんは05年から醸造に携わり、父である先代の病気を受けて11年に社長就任。翌年、南信の酒造会社の杜氏だった慎一さんと結婚して自社に杜氏として迎え、自身は経営に注力した。
従業員は10人。同社は設備投資を進めて、今まで手作業だった洗米や加熱殺菌作業などを効率化。残業を減らすなど労働環境を改善し、生まれた余力を「思考」と「挑戦」に費やす。市場が縮小する中で、全国に約1200の酒蔵がある。存在理由を持たなければ生き残れない。「湯川は木祖の自然に寄り添う酒造りを追求している」と言う。
それは、沸点が100度に届かない高い標高、最高気温が0度を超えない寒冷な気候、軟水など、酒造りにとって厳しい環境を“個性”ととらえ、強みに変える酒造り。冷蔵設備を使わずに低温長期発酵する、発酵速度が遅くなる軟水の特徴を生かす、地元で酒米が取れない分、各地の米を使ってその米の“らしさ”を引き出す─。
「『売れる酒』ではなく、木祖で造れる味を問い続ける。その結果ファンができればうれしい」と慎一さん。「日本は自然を征服しようとしながら、大量生産大量消費をベースに経済成長をしてきた。酒造りもその時流に乗っかり、日本酒離れという痛い目に遭っている。もうそういう時代ではない」との言葉が重く響く。
14酒造年度からは、蔵に自生する乳酸菌を使う伝統的な「生※(きもと)造り」にも取り組む。「ゆくゆくは生※造りで受賞できるようになりたい」。尚子さんの目が輝いた。
受賞した「木曽路純米大吟醸」の購入は最寄りの酒販店に注文を。

※配の己が元

(松尾尚久)


投稿者: mgpress