「刻 伽藍へ―髙橋貞夫展」 大自然独自の技法と表現で

撮影・佐藤大史

切り開いた「彫彩」 挑戦続けて
髙橋貞夫さん 木彫家・大町市

木彫と漆芸を融合させた独自の技法「彫彩(ちょうさい)」は、木彫家・髙橋貞夫さん(79、大町市大町)の代名詞だ。地元の大自然にテーマを求め、感性豊かに彫彩で表す。
日展特別会員、現代工芸美術家協会理事の 髙橋さんは10~17日、松本市中央2の信毎メディアガーデンで「刻 伽藍(がらん)へ― 髙橋貞夫展」を開く。流れをくむ農民美術運動の提唱から100年の節目に重なる個展は「この道64年の集大成」。一昨年の北アルプス国際芸術祭では霊松寺での作品表現で注目を集めたが、独自の世界観をより忠実に描き出すのが今展だ。
暗闇にたたずむ作品は幾色もの光の衣をまとい、流れる雲の映像、シンセサイザーの音色や読経の響きに包まれる。 髙橋さんは「通常の展示とは違う感動を与えたい」と意気込む。

演出に光や音

「刻 伽藍へ― 髙橋貞夫展」では、日展や日本現代工芸美術展の入賞入選作品をはじめ、昭和50年代以降の木彫、彫彩作品約50点を展示。仏像がまとう天衣を連想させる樹林の光景、生命を育み樹林を吹き渡る風が奏でる音のイメージ、といった抽象的でスケールの大きな作品がそろう。
「思うこと、やりたいことが全てできそうな最高な場所」。 髙橋さんは、照明や音響などの設備が整い、さまざまなイベントが開かれ情報や文化を発信する場にもなっている信毎メディアガーデンを気に入り、松本市街地で初めて開く個展の会場に選んだ。
今展の見どころは光と音、映像を用いた作品、会場の演出だ。創作活動の傍ら、1990年に始まった地域の郷土芸能による創作舞台「祭in大町・北安曇」を発案し核となって取り組み、照明や音響を駆使した演出も担当してきた。ここから生まれたつながりや経験も生かし、自作に大胆な演出を凝らす。
作品の着想は、地域の森や樹木などの大自然に得ることが多い。寺院の訪ね歩きが好きで、「身を置くと安らぎを感じられる」という伽藍は、夕暮れの森の雰囲気に通じるものがあるという。シンセサイザー奏者の影武者さん(大町市)が作品に合わせて書いた曲や僧侶の読経の声が流れる中、ライトアップで多彩な表情を見せる作品。幻想的な演出でホールに伽藍の世界を表現する。

農民美術から

「これが俺の原点」―。 髙橋さんが見せてくれたのは、高さ10センチほどの「木端(こっぱ)人形」。おかっぱ頭の少女を彫った素朴な工芸品からは、手仕事のあたたかさがにじみ出る。
大町に生まれ、絵の才能を認めた恩師の勧めで、中学卒業後に東信にあった地場産業育成のための新日本農民美術研究所で木彫を学ぶ。入所間もない15歳で初めて彫ったのがこの人形だった。「こんな仕事しかできなんだかなぁ。でも、よく見るといいなぁ。この雰囲気はもう出せない」。工芸品の職人への道を歩み出したばかりの少年には、作家になる未来など「想像すらできなかった」と回顧する。
農民美術運動は大正時代に上田ゆかりの芸術家・山本鼎(かなえ)が提唱し、農家の冬場の副業として東信地域から広まった伝統工芸。木彫を学んで後進の指導に携わり、20代半ばで帰郷した 髙橋さんは工芸品制作を主に生計を立てたが、自分の技術を試そうと日展に挑戦し、75年に初入選。作家としての道を開いた。
安曇野市出身の漆芸家・ 髙橋節郎さん(故人)の世界にほれ込み、薫陶を受けながら学んだ漆芸と木彫を組み合わせ、彫彩という新境地を開拓。農民美術の手仕事が息づく力強い木彫と、繊細で優美な漆芸との融合の妙だ。
2017年は、大町市で開かれた北アルプス国際芸術祭への出品に続き、芸術文化によるまちづくりの機運を継続していく狙いで初開催された、大町やゆかりの作家に光を当てた美術展のアートディレクターも務めた。昨年は日本現代工芸美術展で最高賞の「内閣総理大臣賞」を受賞。傘寿を前に作家としての挑戦は衰えを知らない。

まちに暮らす作家の朝の日課は、コーヒー片手に幼なじみとの世間話。自治会の役員も務め、隣組内の配り物や、隣近所の住民と共にポケットパークの草取りにも精を出す。のみを打つ音が日常の中に響き、そして作品が生まれる。「苦労もしたが、自分の作品を一つでも多く作っていくこと。それが俺の生きざま」とほほ笑んだ。

【メモ】
刻 伽藍へ― 髙橋貞夫展 10~17日午前10時~午後5時、松本市中央2の信毎メディアガーデン1階ホール。入場無料。
シンセサイザー奏者・影武者さんの演奏会と、 髙橋さんによる作品解説などのトークイベントは15日午後1時と3時に開催。 髙橋さんは会期中、連日来場する。木匠安曇野 電話 0261・22・0926

(青木尚美)


投稿者: mgpress