ろう者水泳の中東郁葉さん 次々と日本新記録 世界への挑戦続く

先天的な聴覚障害のある松商学園高校3年の中東郁葉さん(17、松本市並柳)は、日本ろう者水泳界期待の若手選手。背泳ぎでは短水路(25メートルプール)と長水路(50メートルプール)全7種目の日本記録保持者だ。
身長152センチと小柄だが、豊富な練習量と精神力の強さを武器に海外選手と渡り合う。8月下旬にブラジルで開かれた第5回世界ろう者水泳選手権では2種目で表彰台に立ち、2種目で日本新記録を樹立した。
昨年は記録が伸び悩む苦しい時期を過ごした。今年に入り、世界を舞台に戦う決意をし、猛練習を再開。結果を出し、競技を続ける意欲を新たにした。目標は2021年夏の聴覚障害者の国際総合スポーツ大会「デフリンピック」の表彰台。挑戦は続く。

トンネル抜け戦う意欲再び
ろう者水泳選手 中東郁葉さん 松本市

持久力伸ばし念願の表彰台

今から1年前、中東郁葉さんは長いトンネルの中にいた。競技生活で初めて経験する停滞期。競技への気持ちが高まらず、生活の一部となっていた練習に行かない日も。きっかけは高1だった2017年夏、トルコで開かれたデフリンピックだった。
中東さんは中学生になると、所属するSAM中央スイミングスクール(松本市並柳)で本格的な競技生活に入った。中2の時には日本ろう者水泳協会の強化指定選手になり、さまざまな大会や海外合宿に参加。得意の背泳ぎで、ろう者の日本記録を次々と塗り替えた。
そして、勢いそのままにデフリンピックへ。初の世界大会だったが物おじせず、200メートル背泳ぎは予選を2位通過。しかし、表彰台を意識して臨んだ決勝レースで心が折れた。
日本新記録を出したものの結果は6位。「周りの選手は予選では流していたんだ…」。世界との差にショックを受け、帰国後、体に力が入らなくなった。そこから記録は低迷。目標も持つことができなかった。
「世界で戦う」という新たな目標を設定できたのは今年に入ってから。新しくコーチになった小林一樹さん(34)から「8月の世界選手権や11月のアジア太平洋大会で表彰台を狙ってみないか」と提案され、再び戦う気持ちが芽生えた。
持ち味の持久力を伸ばすことを決め、自由形の長距離種目で表彰台に立つことを目指し、5月から猛練習を開始。平日は毎日2時間、休日は午前9時から正午と午後1時から4時まで泳ぎっぱなし。多い日は1日に1万5000メートルを泳ぐ追い込みで、ぐんぐん力を付けた。
6月下旬の県高校総体では800メートル自由形で2位(10分1秒04)。7月下旬の北信越大会(11位、9分45秒98)では県大会から15秒もタイムを縮めた。
自信を持って臨んだろう者の世界選手権では自由形2種目と背泳ぎ3種目、男女混合リレーに出場。800メートル自由形は自己ベストに届かず5位だったが、1500メートル自由形は18分46秒77の長水路日本新記録をたたき出し3位。念願だった“世界の表彰台”に立った。また、400メートルリレーではアンカーを務め、こちらも3位に。
「頑張って、さらに結果も出た。うれしい」。帰国後、獲得した2つの銅メダルを手に、満面の笑みを浮かべた。

挫折の経験が変化と成長に

中東さんは小2の時、SAMで水泳を始めた。中学生になって競泳の道に入ってから記録が伸び続け、あれよあれよという間にろう者水泳の日本代表になり、デフリンピックで壁にぶち当たった。「何の自覚もないまま出場した私にとって、デフはとても大事な経験だった」
挫折を経験した中東さんは、それまでの無邪気に水泳を楽しむ選手から、目標を立て、足りないものを把握し、目標に近づく方策を考える選手へと変化。「練習は『発見』があるから楽しい」と話す顔はたくましい。
今後は再び背泳ぎに力を入れ、21~23日のジャパンパラ大会(横浜市)、11月初旬のアジア太平洋ろう者大会(香港)に挑む。「自由形で追い込んだことが、背泳ぎにどう生きてくるか楽しみ」。2年後のデフリンピックへ向け、“新生”中東郁葉は着実に歩みを進めていく。
(松尾尚久)


投稿者: mgpress