穂高のおもしろカフェスプーンアート閉店 店主の今後は…

作家活動1本に絞りたいけど…

「自殺しようと思ったが、ここに来たらアホらしくなり、そんな気持ちも吹っ飛んだ」
店内のお絵かき帳には、来店者のこんな言葉が記されている。
ここまで突き抜けた店は、そうはない。上から降りてくるマツコ・デラックスのオブジェ、小便小僧の股間から出てくるアイスティー、「天国」「地獄」があるトイレ…。地獄には「生首」があちこちに置かれ、入るのがためらわれるほどだ。
安曇野市穂高のJR穂高駅前にある「おもしろカフェスプーンアート」。多くのメディアがそのディープな世界を取り上げ、全国から人が訪れた。だが20日で閉店し、展示品は場所を変えて再出発する。さて、店主で、時折「スプーンマン」に変身する松原弘己さん(52)の今後は…。

独自の世界創作の道へ

スプーンマンこと、造形作家の松原弘己さん。松本調理師専門学校(松本市白板2)を卒業後、東京のフランス料理店で修業し、21歳で松本市に喫茶店を開店した。23歳でスナック、居酒屋のオーナーに。その後、ラーメン店も経営し、一時は従業員20人を抱えるまでになった。
31歳の時、父と愛犬を亡くしたのをきっかけに、自分の世界に閉じこもるように。大きくしたラーメン店も閉じた。
絵画や石こうの作品を作るようになったのはそれからだ。ふと目に入ったスプーンが魚のうろこに見え、インスピレーションが湧いた。目の前が開けた気がした。それまでふさぎ込んでいたのがうそのように、独自のスプーンアートを次々と生みだし、国内外の展覧会で入賞するようになった。
JR穂高駅前に「おもしろカフェスプーンアート」を構えたのは42歳の時。穂高を活性化しようと、2009年のあめ市で穂高駅前通り商店街にある銀行や店舗にスプーンアートを展示したのがきっかけだった。スプーンやフォーク、お玉など、身近な食器や調理器具を使ったオブジェは好評を博した。「商店街の活性化に一役買いたい」。空き店舗を借りカフェギャラリーを開いた。

笑いと驚き感動の10年

お客さんと接するうちに、「自分のアート作品を見てもらう」から、「楽しんでもらいたい。笑顔で帰ってもらいたい」との思いを抱くように。「アーティストとして人と違った物を作りたい」という気持ちもあり、面白路線にかじを切った。「面白い物を作り、展示することで、お客さんとの距離がぐっと縮まった」。何かがはじけた。
訪れた人をぎょっとさせ、笑わせてきた10年。松原さんには、ここを訪れた人を100パーセント感動させた自負がある。
だが、近年は穂高駅前周辺を訪れる人が減ったこともあり、来店する人が激減。もっと感動してもらうため、常に展示を工夫しなければ|という重圧も大きかった。「やりきった」。そんな気持ちになり、閉店を決めた。
小林明弘さん(25、小諸市)は、穂高神社を訪れた際、店の外観を見て、「何だこの店!?」と、思わず入ってしまったという。「店内を見て外観以上に驚いた。仕掛けも大掛かりで、トイレもびっくり。ここまで突き抜けていると楽しい。閉店はさみしいですね」
穂高駅前通りにあるクラフトショップ安曇野のスタッフ、野中由紀子さん(62)は「松原さんは『YOSAKOI安曇野』に、スプーンマンのいでたちで出てくれるなど、話題の人。すごく面白く、名物店だっただけに残念」と話す。

作品1000点は静岡で再び

店内にあるスプーンアートの作品、ユニークなオブジェや仕掛けなど約1000点は、すべて静岡県伊東市にある「アホとボケの楽園(パラダイス)伊豆まぼろし博覧会」に寄贈する。来年の春には「松原弘己コーナー」として再び、お目見えする運びだ。
では、スプーンマンの今後は?
「スプーンアートの作家活動1本に絞るつもり」と松原さん。一方で、何かで人を笑わせたり、ぎょっとさせたりして「喜んでもらいたい」という気持ちも捨て切れない。「普通のおじさんに戻れるのかな」。自分でも半信半疑だ。
(八代けい子)


投稿者: mgpress