車内に極上の音楽を 「コール松本」音響手掛けた車がコンテスト入賞

シートに腰を下ろすと、左斜め前方でドラムがサンバのリズムを小気味良く刻み始めた。やがてドラムの左隣からベース、右隣からピアノが加わる。ご機嫌な前奏に続いて、女性ジャズボーカリストが中央前に、その左後方にエレキギターが現れ、極上のアンサンブルに包まれた―。
ライブハウスでの演奏の様子ではない。国産コンパクトカーの車内に響く音楽だ。
車に“魔法”をかけたのは、松本市井川城のホームオーディオ・カーオーディオ専門店「コール松本」の小林靖直社長(63)。小林さんが音響を調整してカーオーディオコンテストに出場した車の持ち主は近年、連続して表彰台に立っている。
「車での通勤時間を豊かなひとときに変えてくれた」。常連客から感謝の言葉を聞くのが、小林さんの至福の時だ。

顧客と一緒につくりあげて

荻原健太郎さん(24、佐久市)がカーオーディオの世界に魅せられて1年がたつ。きっかけは、コール松本にあるデモカーで音楽を聴いたことだった。「衝撃だった」。
小林靖直さんに調整してもらった愛車「フィット」で、7月の「ハイエンドカーオーディオコンテスト」(静岡市)に出場。すると、ユーザーカー部門内蔵アンプクラスでいきなり優勝した。
同大会は14年まで18回続いた「パイオニア・カーサウンドコンテスト」を継いだ、日本最高峰の大会。小林さんは「パイオニア―」の第2回大会(98年)からほぼ毎年挑戦しているが、優勝は初。「経験を積み重ねてきた、それに尽きる」と感無量の様子だ。
近年、小林さんの手掛けた車は入賞を重ね、「ハイエンド|」になってからは2位(17年)、3位(18年)、そして今年は1位と3位に。表彰台に顧客を送り続ける。
出場のほとんどはユーザーカー部門。小林さんと顧客が一緒になって音づくりをする。「音楽が好きで、一緒に高め合える仲間がいることが何よりうれしい」と頬を緩める。

音源の魅力をどこまで再現

車内でいい音楽を聴くのは、実は難しい。スピーカーはいずれも運転者との距離が異なる。音は窓ガラスなどに反射し、空間を錯綜(さくそう)する。音源の魅力をどこまで再現できるかが腕の見せどころだ。
例えば、スピーカーを六つ搭載した車。それぞれのスピーカーから出る音のタイミングを変え、音がダッシュボード中央に集まるようにする。この時、窓ガラスへの反射など車内のさまざまな条件を考慮し、ミリ単位で音の角度などを動かして「音像」を作っていくと、各奏者の立ち位置が分かるような臨場感が生まれる。
しかし、コンテストで問われるのはその先にある「音楽の表現」だ。声や音が持つ繊細なニュアンスや音の透明感、切れ味などを出したり、リズム隊とのバランスを取ったりして、情感豊かな音楽にする。楽曲への理解力や聴く力が試されるため、小林さんは顧客を誘ってジャズ・クラブ「ブルーノート東京」に通い、セイジ・オザワ松本フェスティバルに足を運ぶ。

多くの人たち楽しさ知って

小林さんは松本市内の短大を卒業後、地元のホームオーディオ販売会社に入社。20代後半で独立し、同市沢村にソニーショップを開業した。バブル絶頂の30代半ばには同市渚の国道19号沿いに進出したが、ほどなくバブル崩壊。多額の負債を抱えて「地獄を見た」。
渚の店を7年でたたみ、現在の店をオープン。このとき、本職のホームオーディオに加え、カーオーディオにも力を入れることにした。モノが売れない時代に生き抜くすべを模索し、「いい音楽を身近で聴く暮らしを提供しよう」との思いに至った。
無理のない金額から始められ、生活に密着した車がステージとなるカーオーディオは、その思いを体現できる世界|。そう感じた小林さんは、オーディオ評論家の教室があると聞くと全国どこへでも行って教えを請い、コンテストで経験を積んだ。
7月に優勝した荻原さんは「今度は自分の力を試したい」と、10月から毎週のように小林さんの店に通い、調整を教わる。「若い人に興味を持ってもらえるのはうれしい」と小林さん。「車でこれだけの音楽が聴ける、毎日が楽しくなるということを、多くの人に知ってほしい」。水曜定休。同店℡0263・28・1551

(松尾尚久)


投稿者: mgpress