「楽都」支える弦楽器職人 橋本弥生さん

表板を外したビオラ、張り替えを終えて水分を乾燥させている弓─。
松本市大手1の「日本ヴァイオリン松本店」に、メンテナンスのために持ち込まれた弦楽器が並んでいる。作業を手掛けるのは、修理・製作職人の橋本弥生さん(31)だ。
この業界では数少ない女性で、2児の母でもある。安曇野市の出身。小学校から高校まで、松本発祥の音楽教育法「スズキ・メソード」でバイオリンを習っていた経験が、楽器の職人としての下地になっている。
「バイオリンってどんなにバラバラになっても直せるところが面白いし、どうやって直そうか考えるのも楽しいんです」
9月に開店した同店を夫の健裕さん(33)と共に切り盛りしながら、「楽都」を縁の下で支えている。

弦楽器を修理・製作橋本弥生さん 松本市
奏者に頼られる存在目指して

身近な修理の場 育った地で店を

白く輝く馬毛を束ね、水を付けながらくしでとかす。弓の毛替えをする橋本弥生さんの手さばきはしなやかだ。「ちょうどいい長さとバランスで留めるのは、何年やっても難しい作業なんです」
弥生さんによると、弓の毛替えは作業できる職人が県内には少なく、外部に発注して戻ってくるまで1週間ほどかかっていたという。
弥生さんが弓の毛替え作業にかける時間は1時間ほど。作業場はオープンスペースになっており、「自身の弓が直る様子をじっと見ているお客さまもいます」と弥生さん。持ち込まれる弦楽器は、表板の割れやコーナーの欠損、弦やペグの交換などさまざま。これまで身近で修理や調整ができず放置していた人や、アマチュアオーケストラの奏者などが利用している。「調整したら響きがよくなった」(40代女性)、「クリーニングですごくきれいになった」(50代女性)といった声も。
同店はバイオリンのメンテナンスや修理以外にも、子ども用、初心者用まで客の要望を聞き、本社から取り寄せて販売。名器「ガルネリ」も扱う。月額でのレンタルや防音室での試奏も。武蔵野音楽大学出身で留学経験もある夫の健裕さんは、ピアノと外部講師のバイオリンの教室を開いている。
弥生さんはスズキ・メソードでバイオリンに触れ、ものづくりに興味を持った。都内の大学で建築や家具製作を学び、卒業後、バイオリンの修理・製作を学ぶため専門学校へ。職人になってからは、個人の工房と日本ヴァイオリンで腕を磨いた。
スズキ・メソードでバイオリンを習っていたころから「楽器を送らずに、修理やメンテナンスをする職人に直接、説明や要望ができたらいいな」と感じていた弥生さん。「自分の育った土地で店を開きたい」と決め、全国でバイオリンの販売・修理を手掛ける大手の日本ヴァイオリンと交渉。健裕さんが店長となり、夫婦で松本店の開設と運営を任された。

弦楽器の魅力を伝えていきたい

幼い頃から音楽に親しんできた橋本さん夫婦が伝えたいことの一つが「弦楽器の魅力」だ。その一環として、年長児から小学6年生を対象とした親子のバイオリン体験会を定期的に開いている。
バイオリンの音の出し方、手入れの方法、製作、ニス塗りなどを企画。初回の12月14日は満員で、1月25日の回の参加者の空きは残りわずかだ。「敷居の高いイメージを取り払い、弦楽器人口を増やすきっかけになればうれしい」と健裕さん。
弥生さんの夢は「普通の音楽会に行けないような乳児も一緒に聴けるコンサートを店で開きたい」。店内にはキッズコーナーを設け、子連れの来店も歓迎している。
作業場に入ると、一瞬できりりとして職人の顔になる弥生さん。「楽都」で弦楽器を弾くすべての人に頼られる「パートナー」を目指し歩みだした。

【日本ヴァイオリン松本店】
午前9時~午後6時。日曜、祝日定休。年末年始休。松本市大手1─9─14フキビル2階℡0263・87・5931

(井出順子)


投稿者: mgpress