【ガンズリポート】挑む~未来へ~松本山雅FC

欲張り承知二兎追う
今季・育成・集客─神田社長に聞く

松本山雅FCは昨季、2015年以来2度目のJ1を戦ったが、前回同様に1シーズンで降格し、残留を意味する目標「境界突破」を果たせなかった。
山雅運営会社の神田文之社長(42)は「欲張りは承知で二兎(にと)を追う」と宣言。若手育成に実績がある布(ぬの)啓一郎新監督(59)を迎え、チームを8年間率いた反町康治前監督(55)が果たせなかった「若返り」を目指すと同時に、J1再昇格も託すという。神田社長に、今季の見通しや育成組織の展望、新たな集客策などを聞いた。

─再び1季でJ2に降格したことをどう受け止めているか。要因は。
昨季は「勝てそう」と期待させる試合が多かったが、引き分けの多さやシーズン終盤の戦いぶりに表れたように、「あと一歩」を埋め切ることができなかった。何か1つ決定的な理由があったとは言えず、クラブとして総合的に力が足りなかった。
ホーム試合の平均入場者数(1万7416人)など過去最高を更新した数字もあったが、それらを選手やチームのパフォーマンスにつなげることができなかった。収入では都市部のビッグクラブにかなわないが、収益性が高い事業やコストパフォーマンスがよい経営で、チームにさらに効率的に資金を投じ、強化することが必要だ。

育成組織と連携を重視

─今季は現場に難しいミッションを課すことになる。
現場には引き続き、シンプルにフットボールを追究してほしいと思っている。布監督はU─16、19(16、19歳以下)日本代表の監督経験もあり、Jリーグで活躍する選手はほぼ把握している。編成についてもスムーズな意見交換ができており、彼の引き出しを増やす作業の手伝いはしやすそう。
監督の下に集うスタッフとともに、トップチーム、会社、育成組織など、それぞれの動きが見える関係構築に気を配りたい。
─今季は初めて育成チームのU─15と18がそろって北信越リーグで戦う。プロ選手が育つ見込みは。
昨季はトップチームが果たせなかった「境界突破」を育成の各年代がやってくれた。まずは北信越でしっかり戦う力が求められる。何年も続けて戦えるようでないと、トップチームで通用する人材は出てこないだろう。
布監督は「トップと育成組織は連携が必要」という考えを持っている。パイプ役を置くより、トップの指導陣や会社のスタッフもそれを共有し、関わって連携したい。

アクセスの快適化に力

─J2降格に加え、反町前監督らチームの「顔」も去り、観客減が懸念される。スタジアムの魅力発信の新たな策などは。
体制が一変し、「反町ファン」は寂しいかもしれないが、新しいアクションやプレーが見られるということでもある。それが楽しみなチームづくりを、布監督はやってくれるはず。
J1と比べてアウェーの観客は減るが、新たな山雅のファン・サポーターが入場する余地が生まれたとも言える。まだサンプロアルウィンを訪れたことがないライト層に、どう訴えていくかが重要だ。
具体策の1つとして、アクセスの快適化に力を入れる。シャトルバスの発着場所や便数を増やしたり、駐車場の配置を見直したりするなど、交通の動線をばらけさせ、混雑解消を図る。今季のホーム開幕戦に間に合わせ、「スタジアムにより来やすくなった」と感じてもらえるように改善する。
(聞き手・長岩将弘)

地域貢献 地元との一体感重要

山雅の特色の1つが、サッカーにとどまらない多彩な地域貢献活動だ。地域と多くの接点をつくり、一体感を高めていくことは、後発の地方市民クラブに欠かせない。体制が変わり、再びJ2からの出直しとなる今季は、その重要性がいっそう増しそうだ。
選手による地域貢献活動は北信越リーグ時代に始まり、デイサービスセンターを訪れてお年寄りと交流するなどした。JFL時代(10、11年)も、選手が福祉施設や病院などへの慰問活動を続け、ファン・サポーターの拡大にも一役買った。
運営会社が社内に専門の部署を設けたのは、Jリーグに参入した12年。16年7月からは「笑顔があふれる地域づくりに貢献する」という意味の「スマイル山雅」をキャッチフレーズに掲げる。
担当する運営会社営業本部コミュニティ推進部の渡邉はるかさん(31)によると、具体的な活動は大きく分けて2通りある。
1つ目は、地域からの依頼によるもの。祭りなどの行事に選手やマスコット「ガンズくん」を呼びたい─などの要望や、元選手への講演依頼など。松本市の委託で、市内の福祉ひろばなどで開く健康運動教室も含まれる。
2つ目は、運営会社が企画・立案する活動だ。18年6月から取り組む農業プロジェクトは、育成組織のU ─ 12(小学4~6年)の選手らが、同市の中山地区の遊休農地で緑色大豆を育て、クッキーなどに加工して商品化する取り組み。遊休農地の活用や地域との交流、農業体験を通じた人間教育などを狙う。
本年度はスポンサーの協力で「交通安全かるた」を作り、ホームタウンの小学校に配る活動も始めた。松本市内の危険運転の通称「松本走り」が県内外で注目を集めたことなどから、子どもに楽しみながら交通マナーを身に付けてもらおうと企画した。
選手の要望に基づくものもあり、障害がある子どもやその家族をホーム試合に招待する「JUMBO(ジャンボ)シート」は、長男が特別支援学校に通うGK守田達弥(29)から相談を受けて実施した。

農業などの課題 解決への一歩に 取り組み拡大を

渡邉さんは「それぞれの取り組みを単発で終わらせず、地域活性化や課題解決といった本質的な問題にもアプローチしたい」と話す。
農業プロジェクトは実際の収益性が低く、現状は協力する生産者や社会福祉事業所の厚意に頼っているが、農業の担い手不足や農地の荒廃は地域に共通する課題。「収益を上げる枠組みが構築できれば、取り組みを広げることができる」と渡邉さん。「交通安全かるた」も贈って終わりではなく、継続的な活用や実際の交通マナー向上につながる方策を考えるという。
昨年9月29日のFC東京戦に合わせ、初めて実施した「山雅ジャーニー」は、農業プロジェクトから派生した。都市部から訪れるアウェーの観客を中山地区に宿泊させ、収穫体験や農園でのバーベキュー、星空観察などで地域の魅力を感じてもらう試みだ。
「既存の農業体験ツアーにアウェー観客を呼び込むかたちで、他の市町村でも応用できるのでは」と渡邉さん。「1カ所で終わらせず、ホームタウン周遊など横への展開もできれば」と次の一手を模索する。
(長岩将弘)