いざというとき家族を守る「防災ママ」になろう

「災害は忘れたころにやってくる」と言いますが、いつどこで起きても不思議ではなくなってきました。小さい子どもを持つお母さん、自分たちが被災したら備えは大丈夫ですか?松本市危機管理課の防災専門官・宮坂政行さん(57)と課長補佐の百瀬朋章さん(56)に母親として日頃からできる備えについて、昨年の台風19号で断水生活を経験した自称「防災おたく」のA子さん(44、東御市)に自身が取り組む防災術を聞きました。

携帯トイレなど子ども用備蓄品を

宮坂さんは元自衛官で、36年間の勤務の中で東日本大震災(2011年)、御岳山噴火(14年)など計16回の災害派遣活動に従事。その経験を基に防災に関する講演をし、母親に向けて「防災ママになろう」と呼び掛けています。

―小さな子どもを持つ母親が普段からできることは?
「防災ママ」は、子どもと自分の両方の命を守らなければいけない。一般の人より2倍以上大変です。自分の立場を知った上で、平常時にできる次の3つの備えを紹介します。

★家族で防災について話し合う
住んでいる地域にどんな危険(地震、水害、土砂崩れなど)があるか、避難する場所や経路はどこかなどを家族で確認し話し合ってください。松本市では、全戸に配布した防災マップ(最新は17年度版)にその情報が載っています。自宅にない場合は、市のホームページのトップ画面にある「災害・防災情報」から同じ内容が見られます。
★子ども用の備蓄品を持つ
乳児がいる家庭では普段のお出掛け用にも使えるので、液体ミルクを備えておきましょう。読み慣れた絵本、お気に入りのおもちゃ、好きなお菓子も大事です。このような普段使っていた物があると、避難所に行ったときに落ち着くことができます。これらは自治体では用意できません。
また、携帯トイレも用意しましょう。市の備蓄は25万個で、市民全員が使ったら1回でなくなります。一般的に1日に1人5回分が必要といわれています。ホームセンターやネットショップなどで購入できます。
★防災訓練など町会の活動に参加する
小さい子を連れて地域の防災訓練に参加すれば、近所の人に「あの家には小さい子がいる。よく出てきたね」と顔を覚えてもらえ、いざというときに助けてもらえるはずです。
―災害が起きたときに気を付けることは?
(1)1人でできないときは「助けてください」と声を上げる。
(2)避難中は子どもの手を絶対に離さない。
(3)生き延びるための感性を最大限に使う。
生き延びるための答えは一つではなく、時間や場所、状況によっても違います。自分の感性を研ぎ澄ませ、「絶対に助かるんだ!諦めない!」という気持ちを持つことが大事です。実際の災害現場でも、とっさの行動が生死を分けたという場面を幾つも目にしてきました。
―避難所での心構えは?
遠慮せずに要望事項を伝えましょう。ニーズを出してもらえば、可能な限り対応します。市では夜泣きをする赤ちゃんとお母さんのための部屋や、子どもが遊べるキッズスペースの用意などを考えています。
また、健康を維持してできるだけストレスをためないようにしてほしいです。それには、思ったことをどんどん口にして泣くことです。傾聴し、共感してもらうだけで楽になります。
お母さんのイライラは子どもに伝わります。自衛隊の災害派遣で過酷な場面に遭遇したときは、毎晩、隊員同士で話して泣いて乗り越えました。
―最後に一言ずつお願いします
百瀬さん「市内の各避難所には、日頃の防災活動と、災害時に円滑な避難所の開設・運営ができるように『避難所運営委員会』を設置しています。地域住民10人ほどでつくる組織で、ぜひ女性の参加を呼び掛けたい。女性や子育て経験者だからこそ解決できることがあるはずです」。
宮坂さん「備えておけば助かった命があった、という場面をたくさん見てきました。頑張れお母さん!みんなで応援します!」。

不安は親から子に… 断水生活体験者に聞く防災術

A子さんは5歳の女の子と夫の3人家族。昨年の台風19号の際は、坂の上にある自宅に被害はなかったものの3日間の断水生活を体験しました。
「日頃から水や食べ物をストックしているので、給水車が来るまで不安にならずに乗り切れました。ママたちに一番伝えたいのは、真面目になり過ぎないで|ということです。親が必死になればなるほど子どもを不安にさせます」
A子さんは、大型の台風が来ると知ってすぐに銀行へ行き、現金を引き出しました。上陸に備えて5合のご飯を炊き、風呂に水をためました。テレビのニュース映像は子どもの不安をあおると思い、娘が好きなDVDを流していたと言います。
「台風の情報は、自治体などの防災アプリや自分が信用できる情報源で大丈夫だと思っていました。ご飯を炊いている間は、子どもに『たこ焼きパーティーだよ』と言ってたくさんたこ焼きを作り、備えました(笑)。
そうこうしているうちに断水になりましたが、ご飯もあるし、たこ焼きもある。缶詰などを含めれば2日は十分乗り切れると思いました。後でママ友から、パンなどの食料品を買いに子どもを連れてスーパーを回ったけど、どこも品切れで疲れたと聞き、日頃から備える大切さを実感しました」

構えず生活に取り入れて

A子さんが実践する災害への備えを紹介します。
★想定される災害を知っておく
地震や水害などが起きたときに自宅や周辺がどのくらい危険なのかを、自治体のハザードマップ(危険予測地図)で確認しておくことが大切です。私は災害が起きたときに最も心配な土砂崩れの情報をいち早く入手し、避難できるよう自治体の防災アプリも入れています。
台風19号で一番役に立ったのは、ママグループの会員制交流サイト(SNS)でした。登録する人がそれぞれ家から見える様子を写真で撮って送ってくれたので、自分の目で実際の被害を知ることができました。
★食品は「ローリングストック」方式で
備蓄する食料をしまい込まずに定期的に食べ、その分買い足すのがローリングストックです。非常食も大切ですが、いざというときに賞味期限が切れていた、食べ方が分からないでは意味がありません。特に子どもは、日頃食べつけない物は受け付けないこともあります。
普段から缶詰や乾麺などを少し多めに買い、一定量を保ちながら消費と購入を繰り返すことで鮮度が保て、非常時もいつもと変わらない食事ができます。カップ麺は意外と賞味期限が短いので注意が必要です。水も使いながら買い足すといいです。
この方式は食品に限らず、カセットこんろ用のガスボンベやトイレットペーパーなどにも応用できます。子どもが大きくなって使わなくなったおむつも、数枚取っておくとけがの応急処置などに使える場合もあります。
また、都会に比べると地方の方が野菜やお米が手に入りやすい良さがあります。人それぞれで状況は違いますが、備蓄品についてはそうしたことも考慮して必要な物を備えるといいと思います。
★普段から持ち歩けるグッズ
私は普段から、はさみや爪やすり、LEDライトなどがコンパクトに収まった多機能ナイフ(ビクトリノックス)、チョコレート、あめ、飲み物、輪ゴム、折り紙を持ち歩いています。ナイフは爪を切り忘れていた、車内でお菓子の袋が開かないときなど、ちょっとした場面で役立っています。
輪ゴムは災害時だけでなく、長い行列待ちで子どもが退屈しているときに「どっちの手に入ってる?」ゲームをすると10分くらいは持ちます(笑)。折り紙も同様で、特に指を入れて開閉する「パクパク」は好評です。避難所で過ごす際はトランプ、すごろく、福笑いなどもあるといいですね。

災害を意識した備えはもちろん大切ですが、構えず日常生活で取り入れていくことが「もしも」のときに役立つ、とA子さんの話を聞いて実感しました。
(梅田和恵、桜井一恵)