2020.2.10 ウェブサイトをリニューアルしました

金宇館 歴史受け継ぎ次の100年へ 1928年の開業以来初の大改修

古い日本家屋の良さ残しつつ

松本市里山辺の美ケ原温泉にある創業100年近い老舗旅館「金宇(かなう)館」。当代館主は金宇正嗣(まさつぐ)さん(36)。4代目として、老舗旅館の歴史をまさに「正しく嗣(つ)ぐ」定めを負ったような名前だ。妻の枝津子さん(36)が、おかみとして支える。
今では珍しい木造3階建ての本館は、1928年の開業以来初めてという大改修中。4月1日に新装オープンする。平成から令和へと時代をまたいだ改修のテーマは「次の100年につなげる旅館」。柱、梁(はり)、天井板など残せるものは徹底的に残した。新しい建材もほとんどが無垢(むく)だ。
「この旅館を育てていくのが自分たちの役目です」と正嗣さん。建物は至る所に古木と新しい木が混在し、新しい命が吹き込まれたよう。創業当時の落ち着いたたたずまいはそのままに-。

次世代へ残す
大改修決断し

客室にトイレはなく、部屋の入り口に鍵もない、階段が急|。金宇館本館は老朽化が進み、設備は建てられた昭和初期からあまり変わっていなかった。知らずに訪れた宿泊客が「これでは泊まれない」と帰ってしまったこともあったという。
金宇正嗣さんと枝津子さんが結婚し、旅館に入ったのは2009年。家業を継ぐのを前提に、リゾートホテルや料理店で修業してきた正嗣さん。枝津子さんは航空会社のキャビンアテンダント(客室乗務員)からおかみに転身した。
建物の古さ、不便さに悩む一方で、「ひなびた温泉宿」の雰囲気を気に入ってくれる客も多かった。枝津子さんも「出産のたびに実家に帰省したが、旅館に戻って中庭を見たときが一番ほっとした。この古い建物の良さがだんだんと分かってきました」と言う。
古い建物を愛してくれる常連客にも支えられつつ、子どもたちにこの旅館を残すには「施設改善が急務」と感じていた金宇さん夫妻。17年、大改修を決断した。設計、施工などの計画を立て、昨年1月15日に全ての営業を中止し、工事に入った。

古さと新しさ
未来に向けて

約1年かけて改修した本館の客室は全5部屋。もちろん各部屋にトイレも備えた。「お客さんから見えるところには、アルミサッシなどは一切使っていません」と正嗣さん。窓や戸など200点以上の建具は全て木製で、古い日本家屋の良さを最大限残した。共有スペースのリビングルームからは池のある岩積みの日本庭園が望め、新設した風呂棟には趣の違う半露天風呂が2つある。
施工した滝澤工務店(松本市今井)の藤原孝之副社長(63)は「文化財以外ではあまり見ない貴重な建物。約100年前の意匠が随所に残っている」。設計を担当した北村建築設計事務所(安曇野市穂高有明)の1級建築士、北村浩康さん(50)は、時代の流れに沿って新たな設備も取り入れ「建物として正しい道に修正できたのでは」と話す。
玄関の扉を開けると、1世紀近い時を経て焦げ茶色に変色した柱と、真新しい白い柱が、日本の伝統工法により複雑につながれた部分が「現し」になっている。
「古き良き日本の伝統に価値を覚え、残していくのも宿屋の使命」と枝津子さん。正嗣さんも「これから新しい柱が古い柱の色を追い掛けていく。10年、20年、30年後、さらにその先、旅館がどうなっているか楽しみ。『松本に金宇館あり』と言われるようにしなければ」。2人は客を迎える玄関で、決意を示すように背筋をぴんと伸ばした。

メモ
【金宇館】瓦屋を営んでいた故・金宇儀道司さんが松本市里山辺で温泉の源泉を掘り当て、1928(昭和3)年に「御母家(おぼけ)温泉」として開業。32年に別館を設けた。2代目館主は正嗣さんの祖父、伝さん、3代目は父の浩さん(72)。正嗣さんは2018年に代表社員に就き、4代目となった。

(浜秋彦)