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大町「ゆいせきや」シニアの居場所に

大町市のJR信濃大町駅前の商店街。駅近くのガラス張りの店舗内をのぞくと、テーブルを囲んだ女性たちが口も手も元気に動かしていた。木や竹などで編んだ骨組みに和紙を貼り重ね、柿渋で仕上げる「一閑張り(いっかんばり)」の技法で籠バッグが出来上がっていく。
この空間の名は「ゆいせきや」。地域の人が物づくりを楽しみながら交流するコミュニティースペースだ。45年間、この場で「せきや薬局」を営んだ神戸清重さん(76)、千代子さん(75)夫婦が一昨年秋、6年ぶりにシャッターを開けて立ち上げた。旧薬局名と、人と人がつながる「結い」が名前の由来だ。
地域のシニア層の居場所に、駅前を明るくする一助に…。そんな願いが込められた「ゆいせきや」に集まってくる人たちとは。

おしゃべりや出会いも魅力

「不器用な私でも『できるんだ』と、うれしくなるんです」。自分で仕上げた籠バッグを手に、鵜飼千恵子さん(67、大町市大町)は明るく話した。
「ゆいせきや」のオープン間もないころから週2回ほど訪れては一閑張りの籠バッグなどを作っている。最近は両親の介護などで忙しく以前のペースでは通えないが、「日常から離れて製作に集中するのも楽しい。短時間でも気分転換できる場は大切ですね」と語る。
カルチャースクールの講座のように日時を決めず、営業時間内であれば自由に来て、備えられた道具と材料を使って和紙細工を作るスタイル。「他の人と同じタイミングで始めると進み具合が気になる。比べることなく好きな時に自分のペースでできるのがいい」。ここでのおしゃべりや出会いも大きな魅力、と鵜飼さん。
昨春、店で居合わせた70代の女性とフィーリングが合った。女性は県外から大町市に越してきたばかり。鵜飼さんが自宅まで車で送ったのが縁で、食事に行ったり、美容院を紹介して送ったり。今では悩みなどをこぼし合う仲に。「ここがなければ知り合わなかった縁ですね」
今年になって通い始めたのは、名古屋市から移住して6年の西田満代さん(66、大町市常盤)。一閑張りの小さめの籠バッグを作り、県外の友人に「LINE(ライン)で見せちゃいました」と、うれしそう。
居合わせた利用者との会話から、地元の文化や情報を得ることもしばしば。「底」を表す「そっこ」は、ここで製作しながら覚えた方言だ。同じ空間で手を動かす利用者の作品や会話に刺激を受け、次作の構想も膨らませている。

駅前を明るく明かりともし

店主の神戸千代子さんが「ゆいせきや」を開いたのは、自宅に友人を招いてわいわいと物を作る時間が楽しかった経験や、「駅前の店がシャッターを下ろしたままではまずいのでは」との思いから。営業は午後4時半までだが、駅前が暗く寂しくならないように|と、午後9時ごろまで明かりをともす。
一閑張りは、母が和紙細工をしていた影響で技法を学んだ。「ゆいせきや」では当初、一閑張りの作品づくりが主だったが、最近では牛乳パック、段ボールといった身近な材料を芯にした、暮らしに役立つ和紙細工も手軽に作っている。講師を招くなどして季節に即した作品を作る講座も企画し始めた。
「私は先生ではないんです。場を提供して『さあ、やろう』と号令をかけるぐらいの役目」と千代子さん。清重さんは、籠バッグの取っ手の取り付けなど随所で下支えする。
駅前という好立地のため、利用者は大北地域の近隣からも集う。にぎやかな声が響く日もあれば、千代子さんだけという日も。それでも物づくりの楽しさを共有し、和気あいあいと集える場が開ける状況を「ぜいたく」と話す。
「教育(今日行く所)と教養(今日の用事)だよね」「中高年になると手や指はだんだん動かなくなるけれど、口だけは達者になるね」。冗談めかして利用者と千代子さんが今日も明るく笑う。「ゆいせきや」に集う人たちの交わりは、一閑張りで貼る和紙のように、日々多彩に重なっていく。

【ゆいせきや】午前10時~午後4時半。日、火、水曜定休。利用料は1日500円。材料費が別途必要になる品も。籠バッグとお盆は完成するまでの料金で、それぞれ4000円からと3000円(ともに利用料込み)。電話0261・22・0762。詳細はホームページ(「ゆいせきや」で検索)で。
(青木尚美)