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ストップモーション・アニメ最新作撮影佳境 木工・アニメーション作家の草刈さん

木のおもちゃの可能性追求し

カシャ、カシャ、カシャ。静かな部屋にカメラのシャッター音が響く。被写体は木で作られた人形たち。人形の作者、草刈成雄さん(51、木祖村小木曽)が少しずつ人形を動かしてはシャッターを切っていく。
被写体を少しずつ動かして撮影し、それを連続再生することで動いているように見える「ストップモーション・アニメーション」。草刈さんの本格短編映画2作目となる「ミラクルトイズマスター・アンド・ドクター」の撮影が佳境に入っている。
草刈さんは木のおもちゃ作家。電動糸鋸(いとのこ)を使った楽しいパフォーマンスで知られる。ストップモーション・アニメは40歳を過ぎて始めた新たな試みで、前作(2017年製作)は国内外の映画祭で賞を受賞した。さて最新作の手応えは―。

「苦しんでます」前作評価重圧に

最新作の撮影は1年半前に始まった。スタジオは自宅の一室。2~3時間費やして、やっと“数秒”の尺になる息の長い作業だ。ストーリー展開に行き詰まり、撮影が中断することもしばしば。一度撮ったが気に入らず、撮り直すことも多い。ここへきてようやく、クライマックスシーンの撮影にこぎ着けた。
撮影の進み具合を尋ねると、草刈成雄さんは開口一番、「苦しんでます」。物語の締めくくりをどうするか悩んでいるという。「前作の評価がかえってプレッシャーになっている。変な欲が余計に心を惑わせるんです」と苦笑いだ。
今作は、余命いくばくもない医者が木のおもちゃの世界に入り込み、おもちゃたちに治してもらって人間の世界へ戻っていく話。生と死、医学などのテーマが底辺に流れる短編作だ。
前作同様「木のおもちゃの世界」が舞台。ファンタジーな世界観の中で、人間ドラマならぬ「木のおもちゃのドラマ」が展開する。

木製玩具の魅力を多様な手法で発信

草刈さんは大阪府出身で大阪芸大を卒業。脱サラ後、県上松技術専門校(上松町)で木工を学び、1997年、木祖村に工房「ナルカリクラフト」を設立した。6年後、テレビ東京の番組「TVチャンピオン」の木のおもちゃ王選手権で2位になると、その名は一躍全国区に。
作るおもちゃはもちろん、電動糸鋸を使ったユニークなパフォーマンスも草刈さんの魅力だ。すし職人に扮(ふん)した草刈さんが客の注文に応じて魚や動物などを切り抜く「糸鋸寿司」は鉄板ネタ。バンド演奏に乗せて歌いながら切り抜いたり、プロレスマスクをかぶって切り抜いたり、型破りな“芸”で見る者を楽しませながら、木のおもちゃの魅力を発信し続ける。「木のおもちゃから波及する“何か”を追及しているんです」
ストップモーション・アニメを初めて手掛けたのは43歳の時。工房のプロモーションビデオの撮影で、何げなく取り入れたのがきっかけだった。
以降、1分ほどのショートアニメを遊びでいくつか作り、翌年には実写を織り交ぜた30分間の実験的作品を製作。49歳の時には最初の本格短編映画「ミラクルトイズザ・バー君に会いたくて」を完成させ、四万十映画祭(高知)で観客賞を受賞したほか、アメリカの2つの映画祭でも受賞。草刈さんに「ストップモーション・アニメーション監督」という新しい顔が加わった。

閉塞感の漂う日々アニメが苦境救う

アニメに取り組み始めた当初、草刈さんは仕事に行き詰まりを感じていた。「いろいろ挑戦したが、何か『突き抜けられない』という思いがあった」。自分にも木工自体にも希望が持てない日々が続いていたという。
そんな苦境を救ったのがアニメづくり。映画祭での評価や、若くて情熱的な監督や役者たちとの交流を通して、本業の意欲も高まった。「木のおもちゃでまだやれることがあると思えた」。木工作家とアニメーション作家、二足のわらじをはくことで、再び前へ歩き始めた。

前作には家族をはじめ地元の郵便局員、画家、地域おこし協力隊員など10人が声優として参加。今作も地元の人に協力を求める。「作品がすごく温かくなるんです」
今夏の完成を目指し、草刈さんは今日も静かに熱く、シャッターを切り続ける。
(松尾尚久)