兄への思い胸に聖火リレー走る 松本市出身・中村優里さん

東京五輪の聖火が12日、ギリシャで採火され、国内での聖火リレーが福島県からスタートする。新型コロナウイルスの感染拡大による影響が広がる中での開催。聖火には、いつにもまして平安を祈る「希望のともしび」としての願いがこもる。
4月2、3日に県内を走る聖火リレー。松本市島内出身で伊那市の会社に勤める中村優里さん(28)は、企業が募ったランナーの一人として3日に南木曽町を走る。
知的障害スポーツの祭典、スペシャルオリンピックス(SO)の活動の一環で、スポーツの場を提供し、社会参加を支援するプログラムに参加している中村さん。10年ほど前、知的障害のあった兄を亡くした。これまでさまざまな場面で励みにした「兄が見守ってくれている」との思いを胸に、木曽路を駆け抜ける。

SOの活動参加子どもを支える

東京五輪・パラリンピックで、県内唯一のオフィシャルショップになっている丸善松本店(松本市深志1)。両大会組織委員会は5~15日、オリンピックとパラリンピックの聖火リレーで実際に使われる物と同じトーチを展示した。
14日に同店を訪れた中村優里さん。オリンピック用のトーチはハプニングがあって前日に撤去されてしまったが、大きさや重さが同じパラリンピック用のトーチを手にし「思ったより重い。リレーのときにこれを持って転んだらどうしよう」。不安が入り交じった笑顔を見せた。
中村さんは昨年8月に、東京五輪のスポンサー企業、トヨタ自動車が募集した聖火リレーランナーに応募した。課題作文のテーマは「地域をよりよくするために現在挑戦していること。今後挑戦していきたいこと」。SOの活動で昨年6月から松本市を拠点にした陸上競技プログラムにボランティアコーチとして参加し、子どもたちと一緒に楽しんでいることについて、参加のきっかけや活動から得られたこと、今後の抱負などを記した。
昨年12月、聖火ランナー決定の通知が届いた。「聖火リレーは、いろんな人の思いが東京までつながる。光栄でもあり、重みを感じる」と中村さん。「私は障害の有無だけでなく、多様性が認められる社会になることを願って走りたい」と語る。
中村さんが参加する陸上競技プログラムの代表を務める鈴木英子さん(50、同市宮渕)は、中村さんが聖火ランナーになったことについて「いつも子どもたちを温かく支えてくれるアイドル的な存在。新型コロナウイルスで暗い話題が多い中、明るい光をともしてほしい」と期待。同プログラムで中村さんと一緒にスポーツを楽しむ野本陽生さん(16、同市渚)は「練習ではタイムを計測しながら応援してくれる。笑顔で頑張って走ってください」とエールを送った。

希望のともしび亡き兄の分まで

中村さんの兄、俊晴さんは、松本を拠点に音楽活動を通じて自立を目指す楽団「ケ・セラ」に所属し、バイオリンを弾いていた。「仕事から帰ってくる際、コンビニで私の好きな物をたくさん買ってきてくれた」という心優しき兄。その兄が演奏会や練習に向かう時に見せた生き生きとした姿から、仲間とのつながりや居場所があることの大切さを学んだ。中村さんが現在、SOに関わっている原点だ。
中村さんが高校3年生だった2009年、俊晴さんは19歳で亡くなった。家族全員が悲しみに暮れる中、中村さんは「少しでも(周囲を)明るくしたい」と、勉強に没頭した。「毎日、兄の仏壇の前で勉強に集中した」と振り返る。そして早稲田大学に合格。家族に明るい笑顔を届けた。
「合格できたのも兄が見守ってくれていたから。リレーのときも同じだと思うし、兄の分まで頑張りたい」。聖火を手に、中村さんが走る距離は約200メートル。SOの活動で関わっている人たち、亡くなった兄、家族、友人たち…。多くの人の明るい希望の懸け橋になることを願い、「希望のともしび」を掲げて走るつもりだ 。
(浜秋彦)