前回、禁止(×の行動)を伝えるときは、代わりにしてもいい行動(○の行動)をセットにして視覚的に伝えるという方法を説明しました。このやり方は、特に自閉特性が強くて、ADHD(注意欠如多動症)特性がないタイプの人には劇的な効果が出る場合もあるので、ついつい使い過ぎてしまいます。
年中のAちゃんは、言葉で説明してもなかなかその通り動かず、周りが困る行動をしてしまい、「駄目」と注意しても言うことは全然聞きません。あるときメモを使って「〇ハイタッチ」「×砂をなげる」と、イラストと一緒に見せ、ハイタッチの練習をしたところ、楽しくなったときは砂を投げるのではなくハイタッチすればいいと分かり、砂を投げる「問題行動」はなくなりました。
これに驚いた保育士さんは、日常のさまざまな場面で〇と×をセットにして見せるようにすると、Aちゃんもよく分かることがうれしくなり、自らメモ用紙を持ってきて「かいて」と示すほどになりました。ところが、次々とメモで〇×を伝えていったところ、ある日、苦手な読み聞かせ会で、「〇すわってじっとしている」「×あるきまわる」と見せたら、Aちゃんは怒ってメモを投げ捨てて遊戯室から出て行ってしまいました。
同年代の多くが難なくできる行動でも、発達の偏りがある人は、特性のために通常よりもずっと努力を要したり、達成できる年齢が異なったりすることがあります。大人がやらせたいこと、守らせたいルールを提示し過ぎると、メモで提示されること自体が嫌になってしまい拒否するということもしばしば起きています。
メモで提示して守らせるだけでなく、例えば触られて困るものは手の届かないころに置く工夫や、子どもにとって意義を見いだせないことを無理にやらせようとしない大人側の発想の転換も必要です。
【なないろキッズ】 #36 大人側も発想の転換を
- 2020/03/24
- 小児科医・新美妙美のなないろキッズ