新しい家族の形 「お父さんバンク」活用

「お父さんバンク」を知っていますか?自分の得意技やエネルギーを持て余している人と、それを必要とする人をつなぐ活動をしている団体で、シングルマザーの義廣千秋さん(神奈川県藤沢市)が2017年に立ち上げました。安曇野市を訪れた義廣さんに話を聞きました。

自分の得意技誰かのために

「世の中の余白っていうんでしょうか、その部分と子育て世代の余裕のない部分とを結び付けるプラットフォーム(基盤)をつくりたいと思ったのがきっかけです」と義廣さん。
お父さんバンクは、自分の得意技や好きなことを、必要としている誰かのために使って「互いに喜び合う」仕組みです。例えば運動が得意なお父さんに運動会の親子競技に出てほしい、運転が好きなお父さんに一緒にドライブに行ってほしい、料理がうまいお父さんに休日の食事を作ってほしいなど依頼者のニーズはさまざま。関わり合いに関する金銭のやりとりはなく、老若男女誰でも「お父さん」になれます。
義廣さんは2児の母で、15年まで小学校教員をしていました。しかし、時間に余裕がないことや、母子だけだと家庭内が閉鎖的になってしまうことに不安を感じて退職。江の島の近くで小さな喫茶店「ラムピリカ」を始めました。
「たくさんの人がいる場所で子育てをしたいと思ったのが一番の理由です。実際、店を始めたらいろんな大人が来てくれて、子どもたちも常連さんと仲良くなり、触れ合うことができるようになりました」
そして開店から約3年後、義廣さんはあることに気が付きます。
「子育てなどで困ったことがあると度々お客さんに相談していたんですが、考えてみたら一人一人の得意分野を分かって話を聞いてもらっていたんです。健康に自信がある人には風邪予防や予防接種の話を、子育てを終えた方には親子げんかの対処法を-というように。子どもたちが小学校高学年になったときは、勉強が得意な人に頼んで教えてもらいました。
自分たちはもちろんありがたくて感謝の気持ちでいっぱいでしたが、相談された方もうれしそうで、その姿がすごくいいなと思ったんです。人は自分の得意分野で活躍できるとうれしい。これを仕組みにしたら楽しいだろうなと。そこで新しいアイデアを出すのが得意な友人に相談して『お父さんバンク』を立ち上げました」

楽しみながら子育てを応援

自分ができる範囲で楽しみながら子育て世帯を応援する|というのがバンクの趣旨。金銭の授受はないものの、遠方に行く場合は依頼者に交通費のみ負担をお願いすることも。
「『誰も絞り出さない』が絶対的な条件です。誰かが無理をするとそこに負のエネルギーがいってしまう。頼む人と頼まれる人が本音で話し合い、お願いしたいこととできることを決めるのが一番だと思っています」。お金を払えば完結するサービスを人間関係でこなし、その関係を育てていく。これがテーマの一つと言います。
「新しい家族の形を模索するとでもいうのでしょうか。私も1人で子育てをしてきたので、ベビーシッターや託児サービスなどを利用しました。すごく便利だし、今の世の中には絶対必要だと思います。
だけど、時間がくるとそこで関係が切れるむなしさもあって…。だから『お父さんバンク』のような温かいものがあってもいいんじゃないかと思います」

バンクには子どもから年配者まで34人・組が登録。依頼者はウェブサイトで「お父さん」を選び、直接メールでやりとりします。県内在住の登録者はいませんが、活動範囲を全国としているお父さんは数人います。1人より2人、2人よりたくさんで子育てして楽しい、うれしいがたくさん生まれる社会になればいいなと思います 。