暖冬の美ケ原高原・24時 自然が紡ぐ「冬物語」

氷点下10度の夜、王ケ頭ホテルの窓にできた「窓霜」。氷点下15度以下になるとできるヤシの葉状と明らかに異なり、
過去20年間で初めて出現した珍しい窓霜アート=2月19日午前7時48分

松本市と上田市、長和町に接する美ケ原高原(2034メートル)。日本百名山の一つで、360度の大展望が誘う雲上の別天地だ。神秘的なモルゲンロートや夕日劇場、夢の世界の霧氷や星空、幻想の美の窓霜(まどしも=霜の華)…。サプライズの自然現象との出合いを期待しながら、暖冬の美ケ原高原の「冬物語」をカメラで追った。

今シーズンの冬の訪れは、例年より1カ月ほど遅かった。初雪が舞ったのは11月28日、標高2000メートルの台上が白くなったのは12月23日だった。王ケ頭ホテルの三浦康栄支配人は「例年は牧場の柵が見えなくなるほどの積雪になるが、今シーズンは30センチほど。夏の水不足が心配です」と話す。一方、暖冬の影響は、霧氷や窓霜などにも顕著に現れ、これまでに見たこともない光彩や模様を際立たせ、一期一会の格好の写真の被写体となった。
12月25日、夕方の冷え込みで木々に霧氷が付いた。翌朝の日の出に染まる霧氷に期待したが、夜半に気温はプラス2度に上昇。懐中電灯で照らすと枝に水滴がびっしり付いている。「駄目か」。無念の思いで車中泊の車に戻った。
26日午前5時。氷点下1・5度。ヘッドライトで前夜水滴が付いていた枝を照らした瞬間、キラっと光った。水滴はそのまま凍り、雨氷現象さながらの光景だ。朝日を浴びて宝石のようにきらめく光彩を丸くぼかす「玉ボケ」の撮影で迫った。まさに暖冬の朝の贈り物だった。

2月19日午前6時半。王ケ頭ホテルの「窓霜先生」と慕われる竹下千明さん(安曇野市穂高)からの電話だった。「20年間、窓霜に関わってきたが、今まで見たこともない変わった模様が現れた」と声を弾ませている。急行し、窓の外側に偏光板を置き内側からレンズに付けたPL(偏光)フィルターを回転させた瞬間、カラフルな光彩がファインダー内に押し寄せてきた。一点から彩りが湧き出るような初めて出合った模様だった。
例年だと、日中も氷点下のため霜は解けず、日ごとに厚みを増していく。厚みが増すときれいな光彩になるという。だが今シーズンは、昼前には完全に解け一朝だけの輝きだ。「気温や湿度、風など窓霜のメカニズムは繊細で微妙です。今回の光彩と模様は、暖冬の影響のような気がします」と竹内さんは話した 。

星夜に輝く月焼けの「赤富士」。手前の月焼けは霧ケ峰高原車山=1月9日午前4時41分

1月9日午前4時41分。北アルプスの燕岳北側に沈む直前の十三夜の月に照らされ、星空の中に富士山が赤く焼けた。「月焼けの赤富士」と呼ぶのだろうか?偶然にも棚引き流れる黒い雲が富士山頂にかかり、驚愕(きょうがく)の太古の光景を連想させた。
空気が澄む冬は、山岳大展望が楽しめ、深田久弥の日本百名山の41座が観望できる。北アルプス、御嶽、中央アルプス、南アルプス、富士山、八ケ岳、奥秩父山塊、浅間山、菅平、北信五岳…と白銀の山並みが続く。
王ケ頭ホテルで長年行っている「晴天率」や「星天率」など7項目の観望調査結果のデータが大変興味深い。記録をまとめている中村学さん(下諏訪町)に聞いてみた。今シーズンの晴天率は、秋晴れの10月が50%に対して2月は80%。星が見える星天率は同様に30%、57%。富士山観望率は40%、70%である。空気がさえる冬期の観望の良さを物語っている。
冬の美ケ原高原に訪れる人たちは何を求めて来るのだろうか?それぞれ来る時の思いは違う。だが帰る時には皆「冬にまた来たい」と答える。大自然に抱かれ、生きる力と癒やしをもらい大きな感動という宝物を持ち帰る。これが暖冬と言われながらも厳しく美しい冬の美ケ原高原の魅力である。

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