松本のかき氷店全国展開に挑む 天然氷使用「中町氷菓店」

貴重な天然氷 環境への思いも

北極の氷原が減り、氷河も小さくなり、諏訪湖の御神渡りが見られない年も珍しくなくなった。地球温暖化の影響で希少性が増す天然氷。そんな貴重品で作るかき氷の店が、松本市の「中町氷菓店」(中央2)だ。
使っているのは、山梨県北杜市の「蔵元八義(やつよし)」が伝統的な手法で作った天然氷。同店を運営するスマイラル・カンパニー(中央3)の永野崇社長(34)は「薄く削っても溶けにくく、口に含むとふんわりとした食感」と話す。
1杯1000円ほどとやや高価だが、昨夏は400杯を売り上げた日もあった。需要は十分あると踏んだ同社は今年、東京や鹿児島など県外を含め6カ所に出店する計画。「松本発」のかき氷店の全国展開に挑む。

「蔵元八義」の氷 味わいに感動し

3年ほど前に八義の氷を口にして、今まで味わったことのないおいしさに感動したスマイラル・カンパニーの永野崇社長。八義初の正規代理店となり、昨年から天然かき氷の提供を始めた。
八義は、標高1000~1350メートルの八ケ岳山麓に造成した池で天然氷を作っている。不純物が入らないように気を配り、12~2月の極寒期に自然の寒さだけで14~20日ほどかけてゆっくりと凍らせる。製氷中の降雨など仕上がりに影響するような状況があれば、それまでにできた氷を割って最初からやり直すこともあるという。
「徹夜で作業することもざらで、過酷な作業」。シーズン中は毎週現地に通い、自ら製造に加わっている永野さんはそう説明する。
暖冬だった今季は、天然氷を作ることができなかった同業者も多く、八義の中理恵子さんによると「業界はかなり苦戦している」。軽井沢町で天然氷を作っている「渡辺商会」の渡辺武文社長(78)も「氷が作れず、今季は出荷できない」と話す。標高の高い場所で製氷している八義は、かろうじて作ることができたものの、量は例年の3割程度だった。

伝統の削り技術 地元果物など使用

中町氷菓店は、ゴールデンウイークのころから秋口にかけて天然かき氷を出し、冬場はコーヒーなどを販売する「ナカマチカフェスタンド」として営業。今年は先行して3月の土、日曜日にかき氷の提供を始めた。
メニューは「国産生いちご練乳」(1000円)、「特選抹茶あずき」(同)、「カフェラテ」(同)。シロップは同店のコーヒーや、時季になれば地元の果物なども使い、その日に手作りする。
「シンプルだからこそきちんとしたものを提供したい」と永野さん。八義の天然氷のおいしさを最大限生かすため、削り器の刃や、八義から受け継いだ伝統的な削り技術にもこだわる。
永野さんは安曇野市穂高出身。専門学校を卒業後、県外でパティシエやプロデュース業などの経験を積んだ。2015年に松本市の中町にナカマチカフェ(中央3)を、18年にはその近くに現在のナカマチカフェスタンドを開店した。
天然かき氷店の展開では、フランチャイズ(FC)契約した松本市の抹茶専門店「マッチャガーデン」(中央2)が、3月に京都市内に出店。今後、東京、大阪、鹿児島と、長野市内にFC展開を計画している。このほか、安曇野市穂高の大王わさび農場に直営店を予定する。
出店拡大について、永野さんは「天然氷を作る伝統技術を守るには、需要を広げることが必要」と指摘する。八義によると、昭和初期には全国に100ほどあった天然氷の製造業者は、後継者不足もあり、現在は7まで減少。地球温暖化の進行も、天然氷が作れなくなることに直結する。
「夏にかき氷を食べながら、天然氷を作る冬に思いを巡らせてもらい、環境問題を考えるきっかけにもなればうれしい」と永野さんは話している。