包丁一本身一つ お助け出張料理人・吉田公子さん

終わりない「旅する料理人」で

家のキッチンにはジャガイモ、タマネギ、ニンジン、キュウリ、白菜、サケの切り身、缶詰(ツナ缶、サバ缶)がある。焼き魚と煮物と、あとはどうしようか…。
そんな悩みもすぐに解決してくれるのが、包丁一本、身一つで依頼者宅に出向き、家にあるもので料理を作る出張料理人だ。白菜のコールスロー、ニンジンとツナの炒め物、ツナとジャガイモのグラタン、サケのちゃんちゃん焼き風、サバのトマトソース煮|など、手際よく15種のメニューを挙げてくれた。
おいしい料理を家族に食べてほしい、でも毎日違うメニューを考え、栄養価もコスパも高い料理を作るのは大変―。そんな主婦の強い味方になってくれる出張料理人は「食べる人と素材に寄り添う」をモットーに、今日もあちこち飛び回る。

要望に合わせてどんな場面にも

出張料理人の名は、「Earth Kitchen(アース・キッチン)」を主宰する吉田公子さん(57、生坂村)。夕食のメニューだけでなく、作り置き用、パーティー用の料理にも対応する。ママ友のランチ会の料理を引き受けたり、クリスマス、おせち料理の手伝いに参上したりすることも。
3月末、安曇野市穂高の主婦、丸山桃子さん(35)から吉田さんにSOSの要請が入った。身一つでメニューは決めず、出張先にある食材を使うのが信条だが、この時は丸山さんからカレーのリクエストがあり、あらかじめクミンシードなど4種のスパイスを用意して訪ねた。
1回2時間半。豚肉を使ったちょっと酸っぱい「ポークビンダルー」と、子ども用にカボチャを入れた甘口のカレーを作った。「ポークビンダルーは豚肩ロースの塊肉をカットして使うが、冷蔵庫にある細切れで代用した」と吉田さん。
丸山さんは「こちらの要望に合わせて作ってくれる。野菜の使い方がとても上手で、こんな食べ方があったんだという新鮮な発見がある」。3人の子どもを抱え、さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響で学校が休みになるなどで疲れがたまっていた。「そんな時の息抜き、自分へのごほうびにもしたい」と話す。

手料理褒められ料理家の道決意

吉田さんは母親に厳しく料理を仕込まれ、小学校高学年の時には自分で弁当を作るまでになった。「料理はあまりにも日常的で、進路の選択肢にはなかった」と、美術の専門学校へ進み、インテリアデザインを勉強。卒業後は店舗デザインを手がけ、子育て中も仕事を続けた。忙しい日々を送るが、料理の手を抜くことはなかった。
料理を本格的にやりたいというスイッチが入ったのは40代半ば。友人を食事に招いた際に「公(きみ)さんの料理は癒やされる」と褒められたことが転機になった。自分で作ったチキンなどのトマト煮込みを食べたとき、体に染みわたり、細胞が喜ぶ感覚を味わったのもその頃だ。
まるでパズルが一つ一つ組み立てられるように、料理へのピントが徐々に合っていった。マクロビオティック(穀物菜食)など、体のためになる料理の勉強も始めた。友人を招いて振る舞ったり、友人のパーティーの料理を作ったりする機会も増えていった。
自然の中で暮らしたいと53歳で生坂村に移住。「料理家になる」と宣言し、ゲストハウスのイベントで料理を担当、宿泊・農家レストランの施設でも料理を提供した。調味料、漬物も手作りするようになった。「自然であること」を信条に、身近な旬の食材をできる限り取り入れる。
出張料理は、働きながら子育てをした経験から、女性、子どものサポートがしたいと思い始めた。多くの人に料理を届けたいと、ケータリングサービスも視野に入れる。将来はゲストハウス、料理教室、弁当販売など、食を中心にしたコミュニティースペースをつくるのが夢だ。
店を持たず、出張や旅が好きで「旅する料理人」を名乗る。「食べる人を満足させる料理のゴールはない」。吉田さんの旅は続く。

【メモ】  出張料理は2時間半で4000円。個人向け料理教室も同価格。吉田さんが材料を用意する場合の料金は、1人1000円以上、総額で1万円以上。交通費別途。ビーガン(完全菜食主義)やアレルギーにも対応する。