自然の情景版画で表現 「AasAni」に込めた思い

デザインを考え、板を彫刻刀で彫って版を作り、色を乗せ、一枚一枚ばれんで絵柄を刷り込んでいく版画。朝日村針尾の布作家、鶴田希望さん(36)のキャンバスは紙ではなく布だ。信州の山、星空、クジラ、トカゲ、サンゴ…。さまざまな絵柄が手ぬぐいやストールなどに写し出され、温かい表情を見せる。
鶴田さんのテキスタイルブランド「AasAni(アアスアーニー)」は、北米アラスカの先住民クリンギット族の言葉で「木の魂」の意。モチーフにするのは、自然界の美しい景色や生き物、そこに漂う空気や気配だ。
「人は地球の主役ではない。生き物も、石や土や水さえも、みんな同じ命でみんないとおしく、同じ時を生きている」。そんな思いを作品に込める。

制作拠点を屋久島から信州へ

木版画のような手法で布の作品を作る鶴田希望さん。同じデザインのものを複数作るのに「木版だったらできるのでは」と思い付き、「やってみたら意外にできた」のが発端という。
ただ、想像と違う作品や、予期せぬ作品になることも多く、同じ版を使うのに同じ作品にはならない。布の性質、染料の量、インクの粘度…。いろいろな要素で仕上がりが変わってくる。「コントロールできずに四苦八苦することも多い」が、新しい発見も。「分かりすぎないからこそ、毎回どきどきする」と鶴田さん。
布の魅力は「1枚のタペストリーや大判ストールなどで空間が演出できて、雰囲気が一気に変わる。魔法みたい」。将来は「インテリアや空間演出、本の装丁などもやってみたい」と話す。

群馬県出身。多摩美術大の生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻を卒業し、東京のデザインスタジオでテキスタイルデザイナーとして働きながら版画やパッチワークでの布制作を始めた。
もともと自然が大好き。電車通勤や都内での生活に「自分が住む場所ではない」と感じていた時、学生時代に旅行した屋久島を再び訪れた。森の生きている様子や人の温かさに触れ、「フィルターが1枚取れた」。2011年、屋久島に移住。植物園などで働きながら約2年間、制作活動をした。
除草や果樹の手入れだけでなく、木に登って剪定(せんてい)をしたり、小屋を建てたり、山水の管理をしたり。木も草も虫も動物も、目に見えない菌類や微生物さえも、同じ時や空間を共有し、絶妙なバランスで影響を受け合いながら生きている-。屋久島暮らしでそう感じていた。そんな時、島を訪れたクリンギット族の人から聞いたのが、「Aas(木)Ani(魂)」の言葉と、「木と人は同じ魂を持っている」との考え方だった。
制作に本腰を入れるため再び移住を考え、「山があり、自然が多い」信州を候補に考えた。実家にも、展示場が多い東京にも近く、写真で見た北アルプスの風景にも引かれていた。そんなころ、安曇野市穂高から屋久島へ移住した人と出会い、知人を紹介される後押しもあり、13年夏、車で8日間かけて信州に到着。紹介されたところを訪れるなど、各地を見て回った。そうするうち、朝日村の喫茶店で「ぜひ、村にいらっしゃい」と声を掛けられ、移住地に決めた。
村内でアルバイトをしながら、クラフトフェアなどへの出展や、依頼を受けてロゴマークやステッカーなどを作っている。東京堂のワインラベル、村女性農業者担い手協議会が昨年発行したレシピ集「あさひ村からの野菜だより」のデザインや制作にも携わった。溶け込み始めた朝日村。「気持ちがいい人が多い。でも、想像以上に寒かった」と笑う。
自然に救われたり励まされたりしてきたという鶴田さん。「石や土や水は私たちよりずっと長く地球にあり、その中には私たちが見たことのない記憶がたくさん詰まっているということに、感動を覚える」。その地球が変化していることに危機感を持ち「今こそ自然と人とのバランスを見つめ直さなければ。私の作品が、そんな気付きのきっかけや、意識を変える小さな手助けになれば」と話す。
鶴田さんの作品や問い合わせなど、詳細はホームページ(「AasAni」で検索)