桜花は優しさと癒やしを届ける“応援花”(小川村)

ベニシダレザクラの花舞台で主役の1本桜が白無垢(むく)姿で癒やしの舞を踊る
=ニコンD5、ニコンED AF-Sニッコール1200ミリ

紅花のカンバスに白花の命躍動

新型コロナウイルス感染拡大でかつてない異常事態の春を迎えた。人々はおびえ悩み、先の見えない不安に疲れ、心に潤いが乏しくなってしまった。
こんな時、写真記者として何ができるのだろうか?自然力、写真力…。少しでも心のケアになる優しさと癒やしの春景色の光彩を届けられたら。そう思った瞬間、構図と表現方法が決まり、被写体の光景が脳裏に浮かんだ。
23日、向かった先は日本一美しい村とうたう小川村。樹齢300年の「立屋の桜」の前に立った。大樹に抱かれ、風にあおられるエドヒガンの花の舞を見上げていると、目の前を通り過ぎていく春の光が心を揺さぶり、寂寥(せきりょう)の念に駆られた。美しさとはかなさを備えた桜花に、日本人は繊細な美意識を際立たせ、人生観を重ね、愛(め)でてきた。
1200ミリの超望遠レンズで迫ったのは、白花の1本桜(ヤマザクラ)。樹齢60年の「番所の桜」と呼ばれるベニシダレザクラの鮮やかな花模様の間を通し、谷を隔てた約1キロ先に咲くヤマザクラを主役に据えた。
人が観賞用に植え、名を付けて愛でる桜を遠目に、山間でひっそり、精いっぱい花を付け、命を躍動させるヤマザクラ。生命力の強さに秘めた優しさと癒やしの風情が心の栄養になれば―。そんな思いでシャッターを切った。
(丸山祥司)