【ビジネスの明日】#11 フィールド・オブ・キッチン社長 蔵岡久男さん

厳しい時も「ありがとう」忘れず

「このままだと、松本の飲食店は半分に減ってしまう。食文化の衰退です」。こう警鐘を鳴らすのは、飲食店などを運営するフィールド・オブ・キッチン(松本市宮渕1)の蔵岡久男社長(51)。新型コロナウイルスの感染拡大で、3月中旬にリニューアルオープン予定だった店の計画は中断したまま。それでも「今こそコロナ終息後に向け、人と人とのつながりをつくる時」と強調する。
2011年に倉庫を改装してオープンした、イタリアン中心のSOCOCAFE(ソコカフェ、同)を昨年10月にいったん閉店。リニューアルし、メニューなどを変更して親子で気軽に訪れることができる「居心地のいい店」にする予定だった。
計画の途中で、3月末で閉店する市内の小売店の工場にあった厨房(ちゅうぼう)機器を引き取ることに。「リニューアル店で使える物があれば」と思っていた蔵岡さんだが、その点数が多く、店の中にあふれた。
そこでひらめいたのが「カフェ併設の、厨房機器のリサイクルショップ」だ。蔵岡さんは当初、「全く新しい形態の店。飲食店にチャレンジする人の助けになれば」と考えていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店が苦境に立たされている今、「店を畳む人も出てくる。厨房機器を買い取ることが、少しでも支援になれば」と思っている。

松本市島立出身。高校卒業後にミュージシャンを目指して上京した。夢はかなわず、22歳で地元に戻りサラリーマンに。01年に独立し、たこ焼きなど販売の「焼きたて屋」のフランチャイズ(FC)事業を展開。11年に松本の中心市街地に立ち食いパスタなど独自店を複数オープンし、現在は店を絞り込んでSOCOCAFEと焼きたて屋2店を運営している。
蔵岡さんが経営者として最も大切にしている言葉は「ありがとう」のひと言。独立後、初めてたい焼きを買ってくれた男性客に伝えた。「あの時の『ありがとう』は心の底から出た言葉。今、口にした『ありがとう』が『当たり前』になっていないか、常に自問自答している」
新型コロナウイルス禍で先が見通せない現在も「感謝の言葉を伝え続ければ、人と人がつながり、それが地域社会の発展にもつながる」と信じている。

【プロフィル】
くらおか・ひさお「焼きたて屋」を展開するかめや(原村)のFC事業で独立し、最盛時は13店を運営。06年「フィールド・オブ・キッチン」を設立して社長に就任。同年、「焼きたて屋」の移動販売なども開始。07年、松本オクトーバーフェスト(現サマーフェスト)、13年、信州ワインサミットin松本の立ち上げに携わる。松本市宮渕1。