チロルの森・牧舎担当5年目の佐藤さん 飼育員として成長の一途

森に囲まれた塩尻市北小野の「信州塩尻農業公園チロルの森」で、23歳の女性スタッフが奮闘している。牧舎(動物が入る建物)担当5年目の佐藤ひでさん(同市広丘堅石)。今年から牧舎の責任者を任されている。
公園の人気スポット「動物ふれあい広場」にいる牛やヤギなどの動物たちは110を超える。「この4年間、なにも成長してないんですよ」。不安げな様子を見せると、1羽のめんどりが近付いてきて佐藤さんに優しく寄り添った。
新型コロナウイルス感染拡大防止のため4月半ばから休園していたが、緊急事態宣言解除を受け、長らく静まり返っていた森に人の声が戻ってきた。客とスタッフにあふれる笑顔。佐藤さんの目にも喜びと共に、安らぎと癒やしの場を支える責任と決意がにじんだ。

充実の日々と責任の中で

人気者のアルパカをはじめ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、モルモット、ウサギなど8種類の動物が暮らすチロルの森。「動物ふれあい広場」の名の通り、触ったり餌をあげたりして客が動物たちと交流できるのが最大の魅力だ。
佐藤ひでさんは、牧舎の掃除や餌やりをしながら動物たちに話し掛け、体をなで、コミュニケーションを取る。「人になでられることが気持ちいいと覚えてもらうためです」
園での生活が長い牛やヤギなどは、自分の名前を分かっているという。「ぜひ名前を呼んであげてください。もちろん、来てくれるかどうかは彼らの気分次第ですけど」。子どもが大好きな牛や、男性ばかり追うアルパカなど、動物もそれぞれ個性的だ。
佐藤さんは1カ月前から1日3回、子牛にミルクをやっている。母親のスズランは出産翌日に死んだ。それからは佐藤さんが母親代わり。牛には花の名前を付けるのが同園牧舎の伝統だが、佐藤さんは母親の名前(鈴蘭)から一字を取ってリン(鈴)と呼ぶ。
子牛は初乳から免疫を得る。満足に初乳を飲めなかったリン。健康状態に常に気を配る日々が続いているが、今のところ元気に育っている。「けさは柵から出ようとして、挟まっていました」。佐藤さんは笑った。

昨年末正社員に 気を引き締めて

松本市安曇の乗鞍高原出身で、幼い頃から動物や虫が大好き。「ヘビを首に巻いて遊んでました。気持ちいいし、顔はかわいいし」
中学の頃には飼育員を志望。塩尻志学館高校1年時にチロルの森で職場体験し、「動物と近くで触れ合えるのが理想的だった」と、卒業後に働き始めた。
大好きな動物たちと過ごす充実の日々。しかし、現実は厳しく、これまでいくつもの死別を経験してきた。その中には「もっと早く異変に気づいていたら救えたのでは」と思うケースも少なくないという。
「『なんかおかしい気がする』と感じ、すぐに対処できるかどうかが、動物たちの命を左右する」と佐藤さん。「動物が好きという気持ちだけで働き始めたが、努力と素質がなければ責任は果たせないと痛感している」と話す。

そんな佐藤さんは、飼育員として一皮むけられるかどうかの正念場を迎えている。長らくパートとして働いていたが、昨年末に正社員となった。年明けから牧舎の責任者に抜てきされ、命を預かる現場で最終判断を下す立場になった。
のしかかる重圧。しかし会社は同時に、牧舎のスペシャリストで同僚の中野美夏さんを他部署から牧舎へ戻した。中野さんは職場体験時の指導者で、佐藤さんが「中野さんと一緒に働きたくてチロルの森に就職したと言ってもいい」と尊敬する先輩だ。佐藤さんが牧舎担当になるのと入れ違いで中野さんは別の部署へ異動したため、しっかりと一緒に働くのは初めてとなる。
「中野さんは目の前のことに対して『これでいいのか、これがベストなのか』と毎日考えている。私もそれができるようにならなければ成長はない」。本格シーズンに向け、佐藤さんは表情を引き締めた。