水鏡の早苗田に映る朝焼けの北アルプス(安曇野市穂高)

水鏡の早苗田が朝焼けに神々しく輝く残雪の山並みを映し、「水の郷」安曇野の風情を際立たせる
=ニコンD5、ニコンニッコールED AF-S 17~35ミリ、8日午前4時55分、安曇野市穂高

心潤す水と緑と光の原風景

安曇野の大自然の風物詩の一つに、癒やしの風情を演出する水景色がある。8日早朝、大王わさび農場近く。朝焼けに残雪の北アルプスが真っ赤に染まり、早苗田の水鏡に映り込んでいた。長年撮影しているが、この季節にこれほど赤く染まるのは珍しい。
午前4時55分。左から大滝山、蝶ケ岳、常念岳、横通岳、東天井岳と続く稜線(りょうせん)を染める赤が頂点に達した。神秘な光景を仰いでいると「コロナ疲れ」の心が次第に癒やされ、安らぎが伝わってくる。大自然に感謝し、思わず手を合わせた。その先にそびえる常念岳の山肌には、観望適季を迎えた雪形「常念坊」が浮かび上がる。新型コロナウイルス禍に見舞われた今季、常念坊の姿は里の人々を感染症から守ろうと、高嶺(ね)から念仏を唱えながら合掌しているようにも見えた。
撮影地一帯は、南から犀川、北から高瀬川、西から穂高川と、動脈の河川が集まる国土交通省認定の「水の郷(さと)」だ。環境省の名水百選「安曇野わさび田湧水群」も広がる。この水郷を俯瞰(ふかん)できる明科の長峰山(933・5メートル)の展望台に1970年5月12日、川端康成、東山魁夷、井上靖の3巨頭が集った。その際「残したい静けさ美しさ」と感嘆したと伝えられる。
水と緑と光が共演する安曇野の水景色は、心を潤し、癒やし育む原風景である。
(丸山祥司)