キッチンカー切り盛り 蟻末さん夫婦

廃棄野菜の活用で料理通しエコ追求

おしゃれな車は動くレストラン。メニューもカレーやビーフシチュー、ガパオライス、ロコモコ、夏場はかき氷─と幅広く、常連客もいる。スプーン、フォークは木製、容器は竹から作った素材だ。
「ARISUE SPICE(アリスエ スパイス)」と名付けた白のキッチンカー。切り盛りするのは蟻末健さん(37、白馬村北城)と、妻の彩華さん(30)。健さんが2年前、東京から移り住んで準備を進め、彩華さんも今年3月に合流。中信の各地に出向く。
取れすぎたり、形が悪かったりで、廃棄される野菜を地元の農家から直接購入している。出張料理や料理のワークショップも展開。野菜生産者の思いも大切にしながら、料理を通して「エコな社会」の可能性を追い求めている。

農家の思いも一緒に届けたい

5月下旬、安曇野市穂高のタピオカ店の前に、蟻末健さんと彩華さん夫婦のキッチンカー「ARISUE SPICE(アリスエ スパイス)」が姿を見せた。この日のメニューは、信州牛100%のスパイスビーフカレー(1000円)、カレーとガパオライスの欲張りな「あいがけ」(1200円)など。期間限定でかき氷(350円、600円)もある。
間口は広く開放的。気軽に声をかけやすい雰囲気だ。インスタグラムで予約をして訪れたリピーター、通りがかりの親子連れなど客が次々と訪れ、午前11時から午後3時ころまでの間に、ご飯ものだけで約40食を売った。

廃棄野菜に衝撃 活用目指し起業

健さんは20代で調理の仕事を経験。その後、ITの営業、結婚式場のプランナーや式を仕切るキャプテンなどを務めた。6年前、幼なじみが小谷村に移住したのをきっかけに、信州に足を運ぶようになった。隣近所の人が育てた野菜を「お裾分け」してくれるなど、濃密な人間関係に魅了された。
そうしたつながりを「面白い文化だなあ」と思った一方で、市場価格の低迷や規格外に選別されるなど、出荷できずに廃棄される野菜が少なくないことを知った。「衝撃でしたね」と健さん。
おいしい野菜を無駄にしたくない─。元々独立の夢を抱いていたこともあり、その気持ちが起業のきっかけになった。「廃棄する野菜を消費に回すことでお金のサイクルをつくりたい。それが地域貢献につながればいい」
方向は決まった。店でなくキッチンカーを選んだのは、山間部に暮らすお年寄りにも料理を届けたいからだという。食材のほとんどは白馬や安曇野の余剰野菜で、どれも農家が大切に育てたものだ。「店で待っているのではなく、農家の思いも一緒に、多くの人に届けたい」と話す。
キッチンカーは150万円以上かけて整備した。こだわったのは間口の広さだ。「調理に時間がかかっても、来店者とコミュニケーションが取りやすいから」

自然素材容器で幅広い料理挑戦

千葉県育ちで、ダイビングのインストラクターを夢見たこともある健さん。海をきれいにしたいという思いもある。「山や川は海とつながっている」。海洋プラスチックごみが問題になる中、容器の材料も木や竹といった自然素材を選んだ。
肉が硬いなどの理由で利用が進まない経産牛も「処理の仕方でおいしく使える」。看板メニューの信州牛100%のスパイスカレーに活用しており、白馬村でペンションを営む50代の女性は「絶品。本当においしくて感動した」と話す。
結婚式場の仕事で知り合い、最初は移住や独立に反対だった彩華さんだが、試行錯誤しながらもぶれることなく食材、料理と向かい合う夫の姿や地元の人の温かさを知る中で徐々に気持ちが傾いていった。「自分たちの手の届く範囲で仕事ができる。こっちに来てよかった」と笑う。
健さんの料理に枠はない。イベントの内容や周りの雰囲気に合わせメニューを変える。新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛を余儀なくされた人たちの要望もあり、定額制の定期配送も検討しているほか、地元のアウトドア体験とのコラボも考えている。
「県内なら声が掛かればどこへでも行きたい。いずれ海外でおいしいカレーの提供もしたい」。新しい信州人による信州発のエコ料理の夢は、どんどん広がっていく。℡080・1118・8698