活動休止3カ月 舞台の臨場感を再び

池のほとりの小さなあずまや。夕暮れ時に俳優が一人芝居をしている。照明も音響も舞台美術もない。いるのは俳優と観客、それに犬。苦悩する主人公のせりふが胸に刺さり、おどけたしぐさに笑い声が起きる。空気を通じて伝わる生の表現、感情、息遣い。この臨場感を待っていた。
俳優・演出家の串田和美さん(77)が3~5日、松本市のあがたの森公園で独演した。新型コロナウイルス感染症対策のため活動を休止して3カ月余。もどかしい気持ちのまま散歩中にふと立ち寄ったあずまやが、一人芝居の舞台になると思い付いた。
「3密」を避け、定員は立ち見を入れて20人ほどに設定。告知は自身のフェイスブックのみで、お代は投げ銭。施設管理者の市に許可を取り、稽古した。
演目は、中世ドイツに実在したといわれる「ファウスト博士」をモデルにしたオリジナル作品「月夜のファウスト」。昨年、信毎メディアガーデン(同市中央2)などで、劇団TCアルプのメンバー3人が上演した際の半分ほどの時間に短縮した。
劇場なら美術や演出などで見せ場となるであろう場面は、静かな朗読に変更した。午後6時ごろから1時間ほどの舞台。そよぐ風と、池の魚がはねる音が演出に一役。せりふの間にハーモニカと太鼓が響く。散歩中の市民もつい足を止める。
鑑賞した市内の40代主婦は「人の幸せは、触れ合ったり、集まったりするところにあると思う。コロナ禍で皆が窮屈な思いをしている中、こういう発信の仕方もあるんだ─と勇気をもらいました」。
開演前、「自分は動いていないと息ができない魚みたい」と語った串田さん。「昨日からどきどきしている。無事に終わるか分からないなぁ」とも。
芝居は「愚かな人間しか見られない夢。素晴らしいじゃないか」というせりふで幕となり、大きな拍手が響いた。「ほっとした」。串田さんはそうつぶやき、月夜を見上げた。