荒れた農地と格闘唯一無二のワイン 天王原ワイン・池上さん

安曇野の大地、芸術文化と共に

脱サラ就農6年目の61歳が目指す「オンリーワン」のワインにふさわしいラベルが3つそろった。
情熱の赤、青空のフィールド、そして今年の新作ワインに貼られた安曇野市出身の漆芸家、髙橋節郎さんの作品「夢―まほろばの星座」。個性的なラベルに目を細めるのは、同市明科の池上文康さん。かつて桑畑だった通称「天王原」地区の荒廃農地を再生、自ら栽培したブドウでワイン造りに励んでいる。
55歳の時、農家を継ぐため、新潟市内に妻子を残して単身帰郷した。荒れ地と格闘する日々に「何度も心が折れそうになった」池上さんを支えたのは、信州発のジャズとアートだった。3種類のワインの銘柄とラベルは、その「支え」がモチーフになっている。

荒廃の養蚕桑畑ブドウ畑に再生

標高約570~620メートル。安曇野の田園風景を眼下に望む緩斜面にワイン用のブドウ畑が広がる。安曇野市明科七貴の天王原地区。地元では「てんのっぱら」の愛称で親しまれるが、近隣地域でも知る人は少ないという。かつては養蚕農家を支える桑畑だったが、蚕業の衰退後、30年以上放置され、荒廃地となっていた。
農地としての再生を目指し、農業委員らでつくる「明科地域の農業を守る会」が2013年、10年以上耕作を続けられる人を公募。名乗りを上げたのが池上さんだった。

いつか造り手に栽培計画立てて

新潟県内の大手食品スーパーで働いていた時、東京へ新商品の視察に行き、世界中から集まる個性的なワインに興味を持ったという池上さん。「いつか飲み手からワインの造り手になりたい」。漠然と夢を抱いていた。
父から引き継いだ農地はワイン栽培には適さない。渡りに船で同会の公募に栽培計画を立て応募し、採用された。「まさか故郷で始めるとは夢にも思わなかった」。池上さんも会に加わり、生い茂った木の根や雑草、石などを取り除くことから始めた。
現在、荒廃農地計15ヘクタールのうち約11ヘクタールを整備し、池上さんを含む5人がワイン用のブドウを栽培している。先駆者の池上さんはこのうち4ヘクタールで計8品種のブドウを育て、市内の安曇野ワイナリーに醸造を委託して昨年初めて天王原産100%の赤白のワインを生産。念願だった「天王原ワイン」の販売を始めた。

赤ワインが受賞天王原は「適地」

赤ワインは「Passion(パッション=情熱)樽熟天王原メルロ」。昨年度の日本ワインコンクールで銅賞を受賞した。全国的な評価を得たことで天王原がブドウの栽培適地として「間違いじゃなかったことが証明できた」と池上さん。
白ワインは「Field樽熟天王原シャルドネ」。6カ月熟成させ、爽やかな香りとバランスの取れた味が売りだ。
赤、白とも松川村の画家、成瀬政博さんの絵をラベルに用いた。赤ワインのラベルは、安曇野の工芸作家の制作現場を公開し、美術館を含む一帯を回遊する秋のイベント「安曇野スタイル」のパンフレットを飾った作品。白ワインの銘柄「Field」は、感銘を受けた信州ジャズの曲名から付けた。「この天王原を自分のフィールドとして生きていく覚悟を決めさせてくれた大切な曲」という。いつか農場のブドウたちに信州ジャズの生演奏を聞かせたいとの夢も込めた。
そして、髙橋節郎さんの作品をラベルに使った新作赤ワインの銘柄が「天王原樽熟A」だ。天王原の単一畑の区画で混植したメルロー、カベルネ・ソービニヨンを混醸して熟成させた計270本生産の限定商品。「言葉では言い表せない複雑な味と奥深さは、作品に通じるところがある」と池上さん。「悩んだ時、行き詰まった時、いつも美術館で先生の作品を見て励まされた。感謝の思いをワインに込め、地域に恩返ししたい」と力を込める。

30日午後3時から、地元明科の給然寺で3つのワインのお披露目と試飲販売会を開く。「Passion樽熟天王原メルロ2018」は4100円、「Field樽熟天王原シャルドネ2018」は3400円、「天王原樽熟A2019」は3960円。いずれも750ミリリットル。予約不要。