山名由来の「蝶」の雪形と十六夜の月(池田町会染)

十六夜の有明の月に向かって舞い上がるような蝶ケ岳の「蝶」の雪形
=ニコンD5 ニコンEDAF-Sニッコール1200ミリ 6月8日 池田町会染 

田淵さんが愛でた雪形の傑作

有明の白い月に向かって羽ばたくような「蝶」の雪形を捉えた。
6月8日の早朝。池田町会染から、蝶ケ岳(2677メートル)へ1200ミリの超望遠レンズを向ける。午前5時45分55秒、十六夜(いざよい)の月が「蝶」と重なり、2分35秒後に稜線(りょうせん)の向こうへと沈んでいった。
「蝶」を仰ぎ見ていると、安曇野に暮らした雪形研究の第一人者、田淵行男さん(1905~89年)を思い出す。昆虫のチョウの研究家でもあった田淵さんは「大空に舞い上がる姿の白い蝶は、雪形の最高傑作」と称賛。この雪形をミヤマモンキチョウに見立てて愛(め)でていた。
1981年、田淵さんが著書「山の紋章雪形」を出版するのに際し、11年間、雪形情報の収集などで協力した。その記者に、田淵さんは「蝶の雪形の大きさはどのくらいあるのかねえ」とぽつり。その言葉を受け、3回にわたり現地で実測したところ、広げた羽の大きさは257メートルと分かった。
例年、6月上旬ごろ両羽の中央に黒い肢体部分が現れ、リアルさを増す。昔の農事暦では「背が割れた」と呼び、田植えの適季を告げていたが、現在では安曇野の田植えは1カ月、早まっている。そして7月下旬、蝶の雪形は一面お花畑に変わる。
「今年も蝶の雪形が整いましたよ。田淵先生、見えますか」
(丸山祥司)