農業の可能性開拓する3人 新たな事業形態・価値を模索

「夢のある仕事」の実践

「農家がしっかり稼げる仕掛け作り」を最大の使命に掲げる農家による農家のための会社。中信の若手農家3人がこのほど、農産物の総合商社「新秀(しんしゅう)」(本社・塩尻市)を立ち上げた。
3人は、社長を務める白ネギ農家8年目の高山秀樹さん(45、塩尻市広丘郷原)、専務で葉物野菜農家4年目の小林礼治さん(39、同市洗馬)、セロリやナスなどを作る就農5年目で社外取締役の野口雄貴さん(34、安曇野市穂高柏原)。
現在、契約農家は地元を中心に30軒で、耕作面積は計120ヘクタール。6月半ば、全国に170店舗以上展開するスーパー「成城石井」との商談をまとめるなど実績を伸ばしている。「農業を魅力ある職業の一つにしたい」と願う3人の挑戦とは-。

農福連携に力就農支援にも

6月17日、塩尻市広丘郷原のレタス畑に、同市広丘堅石の障害者就労支援事業所「みどりが丘」で働く利用者2人の姿があった。
勢いよく生える雑草を、根気強く黙々と、手で抜いていく。赤羽柚彦さん(18、松本市寿豊丘)は「普段は屋内作業だから農作業が気持ち良い。毎回楽しみ」と笑顔を見せた。
専務の小林礼治さんの農地では5月から週1~2回、塩尻市内2つの就労支援事業所の利用者が、草取りなどを手伝う。限られた雇用期間や重労働などでアルバイト確保に悩む農家と、幅広い労働と社会参加を求める就労支援事業所を結び付けた新秀の主要事業の一つ「農福連携」だ。
今は小林さんの農地だけで実践中だが、今後広げていく考え。「農家も障害者の姿から感じ取ることは多いはず」と小林さんは話す。

白ネギを塩尻の新たな特産に-と、行政や地元飲食店と協働しながらブランド化を目指す高山秀樹さんと、ラーメン店経営から転身し、従業員7人を雇うまで規模を拡大した小林さんとの間で会社設立構想は生まれた。
2人は7年の付き合い。それぞれの農園の経営が軌道に乗る中、「さらなる成長を求めて攻めよう」と商社を立ち上げ、販路拡大や新規就農者支援に打って出ることにした。
そこで野口雄貴さんを誘った。まだ2年の付き合いだったが、東京の町工場の社員から転身し、持ち前のガッツとSNSなどを使った情報収集力で一人奮闘する姿に、2人は刺激を受けていた。
本業で人的余裕のある小林さんが中心になって動くが、商談には3人で臨む。主要事業は農産物の卸だ。大北地域を中心に20以上の福祉施設などを運営する会社や、東京都内の公共施設を相手にする卸業者と取引。成城石井との商談も成立し、売上高は一気に上がる見込みだ。「契約農家も取引先も順調に増えている」と高山さん。
農家が経営する強みは、生産者側に軸足を置いた取引だ。「生産者の思いやこだわりを丁寧に伝え、規格の統一など流通効率のみでない交渉をする。そこにしか新秀の価値はない」と小林さん。
新秀を通じてタマネギを東京に出荷し始めた野口さんは「食べる人の顔が見えたり高級スーパーに並んだりすることで、やりがいや自信を得て、意識が変わる。安定した出荷先が増えるので、間違いなく売上につながっていく」と話す。

いずれ事業の柱の一つに-と考えているのが新規就農者支援。新秀で管理する良質な畑を提供したり、知恵と技術を持つベテラン農家を紹介したりして、新規就農者が最初から生活が成り立つくらいの収入を得られる環境をつくる。今は資金的余裕がないが「会社に体力が付いてきたら農業機械を就農者に貸し出すなどの事業もしたい」と高山さん。
小林さんと野口さんは就農当初、1000万円単位の借金を抱えつつ、売り物になるような農作物は作れず、「苦しくて何度も辞めようと思った」(野口さん)。この経験から新規就農者も稼げる仕組みづくりに使命感を燃やす。農業は「やり方次第で稼げる、夢のある仕事」。そのことを自ら実践し形にすることで定着させていきたい考えだ。

※高山秀樹さんの高ははしごだか