有明山にも“天の岩戸”伝説
「天の岩戸」はよく知られた日本の神話だ。太陽神の天照大神(あまてらすおおみかみ)が弟のいたずらに怒って岩屋にこもったため、世の中は真っ暗に。その岩戸を渾身(こんしん)の力で開け放とうとしているのがこの像、手力男命(たぢからおのみこと)だ。
手力男命が投げ飛ばした岩戸の伝説は各地にあり、像の西にそびえる有明山もその1つ。江戸時代に松本藩がまとめた地誌「信府統記」は「ここに岩が落ち闇に包まれた世が再び明るくなったので、有明山とも戸放ケ嶽とも言うようになった」と記す。
像は1993年、ほ場整備など高瀬川右岸で行われた幾つかの事業の記念モニュメントを収蔵品に見立てる「田園美術館」構想の一環で建てられた。作者は村在住で小中、特別支援学校の美術教員だった日展作家の中山邦彦さん(77)。
34歳の時に亜細亜現代美術展で入賞した力強い作品。当時は有明山と岩戸の縁は知らずに制作したという。地元ゆかりの作家と作品が、松川南部地区のほ場整備事業完成の記念像に選ばれた。
筋状の変色は、カラスのふんや雨などによる。「開門の神にとっては“運”がつくのは結構だが、ふん害には憤慨しています」と笑う中山さん。そういえば、日本神話にはカラスも登場したっけ。「力の根源」に引きつけられるのは、人間だけではないようだ。