「PD技術」と「カフェ」二足のわらじ

「いい物」生み出す挑戦信州で

プリンティングディレクター(PD)と、カフェのオーナー。
珍しい「二足のわらじ」を履くのは、安曇野市豊科の鈴木利行さん(44)。PDとは、デザイナーや画家らが思い描くイメージを丁寧に聞き取り、印刷物として目に見える形で再現す仕事。カフェでは、自分でコーヒー豆を焙煎(ばいせん)し、提供している。
PDの技術を生かして、苦み、酸味、フルーティーさなどコーヒーの味や香りを示したチャート図も作った。
PDとカフェの共通項は「どちらもこだわりの物づくりをする職人」と話す鈴木さん。仕上がりをイメージして、いかに近い形で具体化するか|。二つの仕事に同じように求められる要素に日々向き合い、よりいいものを作り出そうと格闘している。

デザインの仕事 東京から長野へ

東京のデザイン事務所でグラフィックデザイナーとして活躍してきた鈴木利行さん。地方で暮らしたいと2002年に長野市へ移住し、遊具メーカーで公園遊具のデザインを手掛けた。09年に安曇野市に移り、昨年まで印刷会社でプリンティングディレクターとして勤務。独立し「tm&Company」を立ち上げた。
コーヒーが大好きだった鈴木さん。豆の産地や焙煎の違いなど、いろいろな豆のコーヒーを飲んだが、なかなか納得いく味に出合えずにいた。スペースには困らない信州に移り住んだこともあり「それなら自分で焙煎しよう」と機械を購入。住んでいたアパートで焙煎を始め、2017年には豆の販売を開始。自宅の新築に合わせてカフェ「BELLWOODCOFFEELAB」を併設、昨年3月にオープンした。
「焙煎してすぐおいしい豆はもちろんあるが、時間をおかないと味が出ない豆もある。食べ物に食べ頃があるようにコーヒーにも飲み頃がある。最長、2カ月は置かないとだめな豆もある」と鈴木さん。コーヒーの焙煎も物を作る感覚に近いという。味を組み立て、「ゴール」にいかに最短で正確に近づけていくかはPDの仕事に通じる|と話す。
女性が写った大きな2枚の写真がある。同じ写真だが、見た印象は全く異なる。1枚はベタっとした感じ、もう1枚は光がきれい。髪の1本1本の質感まで伝わってくるようで立体感がある。「印刷によってこんなに違うの?」と驚く。

作品として価値 試行錯誤の中で

オイルパステルを使った絵の印刷も拝見した。原画はたくさんの色を幾つも重ねて描かれている。これをシアン(青)、マゼンタ(赤)、イエロー(黄)、ブラック(黒)の4色刷りで色合いを出すには技がいる。「見た目の印象を限りなく近づけ、実物よりコントラストがあった方がいいと思ったら、その先に踏み込む。黒の色ムラは、印刷ムラに見えないよう最も暗い黒にする」と鈴木さん。腕の見せどころだ。
ボリューム感、絵の強さなど、アーティスト側に立ち、2人で作品を作る感覚という。「原画の良さが“柔らかさ”であっても、そのまま印刷すると“眠い絵”になってしまう。原画と印刷を横に並べて同じになる物は求めない。究極のデフォルメ」と力を込める。
原画は1枚しかないが、複製すると多くの人に見てもらえる。そこに印刷の価値があるという。「印刷物になって、それが一人歩きした時、手に取った人がどういった印象を受けるのか。消費され捨てられる物ではなく、作品として価値を持ち続けることが使命と考えている」
デザイナー・アーティストと印刷の間に立つPD。そして、うまさを追求し、それを客に伝えるカフェ。鈴木さんは、人と人とのコミュニケーションと試行錯誤の中で「本当にいい物」を生み出す挑戦を、移住先の信州で続けていく。