バイオリン奏者山田詩織さん 松本拠点に「楽都の裾野」広げ 音楽をもっと身近に

松本市出身で昨夏からオーストリアのウィーンに留学しているバイオリン奏者・山田詩織さん(25)が、新型コロナウイルス感染症の拡大で帰国し、古里で演奏と講師の活動を始めた。先が見通せない中、松本を拠点に生きる道を選択。「楽都の裾野を広げたい」と歩み出した。

留学先から帰国し講師活動

「はい、弓はこの角度で弾いてみましょう」。日本ヴァイオリン松本店(同市大手1)の講座で、初心者の81歳の男性に山田さんが明るく話し掛ける。「ギー」という音から雑音が少しずつ消えていくと、男性の表情が緩んだ。
「弾けるようになると楽しくなる。バイオリンを好きになって、長く続けてほしい」と山田さん。3月に一時帰国し、しばらく悩んだが、いずれは松本で活動したかったので今から-と、同店に直談判して講師に。下は8歳から先の男性まで生徒5人を個別指導している。
一方、留学先の授業は、オンラインで受講中。卒業して松本での活動を続ける。

幼少から松本で音楽を学ぶ

音楽好きの母親の影響で、5歳から才能教育研究会(本部・同市深志3)の「スズキ・メソード」でバイオリンを習った。松本深志高校で音楽部室内楽班に入り、仲間と演奏する楽しさに魅了された。
東京音楽大、同大学院を経てウィーン私立音楽芸術大の大学院に留学。“音楽の都”で名門交響楽団の首席奏者に指導を受けたり、さまざまな演奏会に足を運んだりして充実した日々を送っていたが、コロナ禍に襲われ、ロックダウン(都市封鎖)寸前に脱出して日本に戻った。

自身育てた楽都に新しい風

「音楽も松本も大好き」という山田さん。小学生のころからサイトウ・キネン・フェスティバル松本(現セイジ・オザワ松本フェスティバル=OMF)に親しみ、大学院1年時の2017年には「小澤征爾音楽塾オーケストラ」に2度のオーディションを経て合格。
OMFではオペラ「子どもと魔法」を演奏した。「小澤さんの熱量を肌で感じながら、自分がかつて見に行った舞台に立ったのは、とても貴重な経験だった」と振り返る。
当面の目標は、市音楽文化ホールで2時間のリサイタルを開くこと。一方で市内のレストランをはじめ、父親が経営する山小屋や、高齢者福祉施設や未就学児の集まりなどにも出掛け、積極的に演奏している。
取材時にリクエストすると、エルガーの「愛の挨拶(あいさつ)」を弾いてくれた。伸びやかで麗しい音色が胸に染みる。「音楽をもっと身近にしていきたい」と山田さん。自身を育てた楽都に、新しい風を吹き込んでいく。