松本市音文YouTubeで配信 おうちで楽しむ「鍵盤フェスタ」

自前で動画制作独自の良さも

「ピアノの中って、こんなふうになっているんだね」。松本市内田のピアノ教室に通う地元の小学4年、福嶌こころさん(10)が、レッスンの合間に先生とパソコン画面の動画に見入っていた。「音の高さによって弦の太さと長さがこんなに違うなんてすごい」と興味津々の様子。
動画は、ピアノ調律師が生徒にもなじみ深いアップライトピアノを分解し、仕組みを丁寧に説明する内容。市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール、島内)が作った「おうちでTHE鍵盤フェスタ」の1本だ。
コロナ禍の影響で中止を決めた毎夏の一大イベント「THE鍵盤フェスタ」の代わりに、YouTubeで配信を始めた「苦肉の策」。だが、誰もが自由にいつでも見られる動画という手段が、新たな可能性も広げている。

人気のイベント早くに中止決定

「THE鍵盤フェスタ」は、松本市音楽文化ホールが毎年7月に開き、音楽好きや親子連れに人気のイベント。ホールが所有するパイプオルガン、チェンバロ、ピアノの3つの鍵盤楽器が一般に開放され、見て触れて聴いて、鍵盤楽器の仕組みや音の違いを知る貴重な1日だ。毎年千人以上が来場する。
コロナウイルス対策で最も避けなければならない「大勢が集まり不特定多数が同じものを触る」特性があり、感染拡大防止の観点から早くに開催中止を決めた。その代わりに|と発案したのが、鍵盤楽器の動画をYouTubeで順次「おうちでTHE鍵盤フェスタ」として配信していくことだった。
ホールでは5年前に独自のYouTubeチャンネルを開設したが、主催イベントのダイジェスト版などの動画を数本上げていたのみ。ましてや、自前の動画制作は初めてとあって、企画制作担当のスタッフ4人が試行錯誤で取り組んできた。他の動画を参考に画角や構成を考えて手持ちの機材で撮影し、時節柄、在宅勤務が続いたスタッフが自宅で編集して作り上げた。
1回10分前後の動画は、6月中旬から毎週日曜の午前10時に配信し、現在5本がラインアップ。今後も順次配信し、合計8本となる予定だ。
「チェンバロ編」はホール主催講習会の講師、※形(くわがた)亜樹子さんが都内の自宅で撮影。山梨県のオルガン工房で撮影した手回しオルガンの「オルガネッタ編」は、楽器の仕組みだけでなく普段のイベント時には見られない製作の裏側も垣間見ることができる。今後、ピアノの名器の一つで同ホールが所有するオーストリア製の「ベーゼンドルファー」の回も予定する。
「面白かった」「分かりやすかった」との声も寄せられている。中村ひろ子制作プロデューサーは「生の演奏会を安全に開くことが第一(の使命)だが、鍵盤フェスタというイベントでやりたかったことを動画でうまく表現できたと思う」と手応えを口にする。

ピアノの構造や歴史なども紹介

自由に視聴できる動画は、市井の音楽教育にも一役買っている。
同市内田の「かみやまピアノ教室」では、生徒にピアノへの理解を深めてもらおうと、これまで鍵盤フェスタへの参加を呼び掛けたり、生徒を募って電車に乗って出掛けたことも。普段から教室のグランドピアノで、中の動きを観察させたり、音の出る仕組みを簡単に説明したりはしているが、生徒の多くが使用するアップライトピアノの説明は難しかったという。
公開されている「ピアノ編」動画では、アップライトピアノの構造がよく理解できるほか、ピアノの歴史や進化の背景も学べる。同ピアノ教室で指導する上山祥子さん(53)は「ピアノの仕組みを知って弾くのと知らないで弾くのとでは全然違う。動画は、専門家が詳しく解説してくれたり、細かいパーツまでアップで見られたりと、イベントにはない良さがあると思う」と、新たな試みを歓迎する。

自粛やオンライン生活が続き、音楽ファンならずとも、そろそろ生の演奏を聴きたいと思う頃だろう。同ホールは新たに自動検温機器を導入、定員を半分に絞るなど感染対策を徹底しつつ、9月5日の※形亜樹子チェンバロリサイタルを皮切りに演奏会を再開したい考えだ。詳しくは同ホールの公式サイト(www.harmonyhall.jp)で。

※森の木が十、下に木