2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

[創商見聞] No.50 瀬畑 一茂 (ATEHAS)

―充実した大学時代、就職は外資系企業へ
 信州大時代は最高の4年間でした。田舎がない私は地方にあこがれ、登山、スキ―などいろいろ楽しみました。 
 もちろん勉強もしっかり取り組みました。教授からの言葉、「経営には答えがない」は、今も心のよりどころです。
 就職でも「外資系企業では自分の考えを発信できる」と教授から助言を受け、外資系企業が国内企業よりも競争力が高い分野が化学業界だったので、BASFへ入社しました。
―1億2千万円の失敗から
 国内営業を担当した20代に自分の判断ミスで1億2千万円の売り上げを失ったことがありました。社内では本当に針のむしろ。でも「損失分だけでも取り戻したい」気持ちで粘り、最終的には14億7千万円の売り上げにまで成長させた。 この実績が評価され、6年目にドイツ本社から声がかかり出向しました。
―香港での経験
 ドイツBASF本社でも多くの経験を積みましたが、仕事の転換点は、香港での経験でした。
 経済成長が目覚ましいアジア圏で事業を拡大させるため、SBU(ストラテジックビジネスユニット・戦略事業)責任者として、香港に赴任。8年間赤字だった合弁会社(中国吉林省)の事業管掌として立て直しに取り組みました。
 主に樹脂原料となる化学品の製造会社で、従業員は40人くらい。就任のあいさつで、当初は多くの改善策資料を用意したのですが直前に取りやめ、「安全に生産継続を」と簡単にすませました。
 彼らの「また本社から来た上司の説教」という、さめた視線を感じたんです。
その後1年半かけ、製造部門には一切触れず、販売戦略の刷新や物流体制見直しなどで、初の単月黒字を達成しました。工場へ「ありがとう」とお礼に行った時、「会社から感謝されたのは初めて」と、とても喜んでくれた従業員の笑顔はすてきでした。
 そこから、驚くような自発的改善活動が始まりました。私が就任時に発表準備していた様々な課題に社員自らが取り組んでいきます。次々と改善され、年間2万5千㌧製造の工場が、10万㌧級工場の利益を上回るという異例の実績を残しました。
 その時、「私が自分でやるだけではだめ」ということを実感しました。それまでは、自分一人で営業し、戦略策定や課題を解決するのが基本でした。でも自分は後方支援をしていくイメージで「従業員からの自発的改善が一番」ということに気付きました。私の組織マネジメントの原体験です。日本に戻った後でも、経営の基本姿勢になりました。
―責任と権限はイコールじゃないといけない
 経営で一番大切なことは、健全な黒字経営。そのためには、会社と個人が一体となって自発的に意識高く課題に取り組むことが重要です。
 責任と権限はイコールじゃないといけないと考えています。社長には権限と伴っての責任がある。限られた経営資源・人材を最大限に生かすこと。社長の意識次第で会社の文化は大きく変わり、結果も変わります。
―心のふるさと松本平へ
 BASFの役員は、業績評価による単年契約です。それを10年以上続け、身心ともに本当にこたえました。退社の2、3年前からは〝心のふるさと〟松本平に車で何度も通っていました。
 東京から往復約500㌔。温泉でひと風呂とか、公園でぼうっと半日とか。1年で20回以上来ました。妻からも随分心配され、娘も20歳になったので、思い切って退社し松本平に住むことを考え始めました。
18年、妻がネットの求人サイトで「安曇野市が産業支援コーディネーターを募集」という項目を見つけ、私たちの人生が変わりました。
―産業支援コーディネーターとして
 この2年間で500件以上の面談を行い、多くの経営者とお話させていただきました。松本、塩尻の両商工会議所でもアドバイザーとして経営課題の解決支援に取り組んでいます。
 多くの経営者さんは研究熱心です。しかし、勉強しているが故に不必要な情報も取り入れてしまい、ノイズに振り回されているようにも、正直感じます。
―アドバイザー職としての想い
 会社の原点(理念)に立ち返り、本質を追求することが極めて重要なことです。
 面談をしていると、経営者が本当は何をしたいかあいまいになり、目標が揺らいでいることがあります。「売れているらしい」といって新しい商品、分野に手を出してはみたものの、残念な結果になっている会社もあります。
私の指摘に対し、「そんなことは分かっている」と言う社長さんもいらっしゃる。その「課題は分かっている」段階から、「どう実行するか」に進むことがとても難しい。
  私は経験者として経営者の孤独感やつらさも体感してきました。理屈ではなく、経営は結果が全てといっても過言ではありません。
だからこそ、課題に向き合った時は会社の原点に立ち返り、各事業や商品、組織の在り方を見直して強化し、その本質を発信していく経営が大切。そのために経営者には「責任と権限がある」のだと考えています。
 私の持っている経験・知見の全てを伝え、経営の原点と本質に取り組めるように支援しています。
 今後も中信地域の各商工会議所でセミナーなどを開いていきます。講演の内容が特に次世代の経営者に響くことを願っています。
その理念は単発のセミナー内にとどまらず、地域の経営者の中に継続的に広く深く浸透し、共通言語となって地域経済が底上げされていく。それがこの地域の持続可能な発展につながると信じています。

【せはた・かずしげ】 49歳、東京都世田谷区出身。信州大学経済学部卒業。1994年、外資系総合化学会社BASF入社。国内営業、ドイツ本社グローバルマーケティング・プロダクトマネージャー、アジア地域本社(香港)でのアジア地域事業の立ち上げとアジア太平洋地域マネージャーを経た後、BASF出光代表取締役社長、BASFジャパン副社長を歴任。2018年から松本に移住、現職。

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