松本平で活動する気鋭画家・山本さん 「自分の絵」追い求め

闇夜なのか、はたまた異界の地なのか。吸い込まれるような黒の背景に、金色のケショウヤナギがぼわっと浮かび上がる。はかなげでもあり、怪しげでもあるその光は静かな生命力をたたえている。
絵に近づき、少し下から見上げてみると、その印象は一変する。照明を受けて金色のパステルや金箔(きんぱく)が激しく光を放ち、一気に「静」から「動」へ。ため込んだエネルギーを爆発させたかのような木の姿は、見る人に違う印象を与える。
作者は山本一輝さん(25、松本市沢村)。昨春、京都府内の芸術大を卒業したばかりの気鋭の画家だ。古里に根を下ろし、松本城や梓川など地元の木を多く描く。「いつも見ている景色がいつもと違って見える。そんな体験をしてもらえたら」。松本平を拠点に芸術の可能性を探り続ける。

3~4歳にかけて、毎日、車を1台描いていた。形状を正確に捉えた絵ではないが「今にも動きだしそうな勢いがあって、今の自分でも描けないのではと思うくらい、いい絵なんです」と振り返る。
山本一輝さんが絵の道を志したのは高校3年の時。テレビ番組で「千と千尋の神隠し」(2001年)などスタジオジブリの作品や新海誠監督の「君の名は。」(16年)の背景美術を担ったアニメーション美術家の増山修さんを知ったのがきっかけだ。
「増山さんの描く鮮やかでリアルな絵がとても魅力的だった」。その日から、ジブリ作品の背景画の模写を開始。さらに東京・新宿のカルチャーセンターで増山さんが開く教室に松本市から月1度通い始めた。「将来、ジブリに入る」と胸を膨らませた。
通信制高校を卒業した年の夏まで教室に通い、増山さんが経営する制作会社のプロ養成講座受講も目指したが落選。しかし、この時、増山さんから美大への進学を勧められ、初めて美大で学ぶことを意識し始めた。
その数カ月後、安曇野市豊科の「蔵のカフェレストラン清雅」で開かれていた画家、山下康一さん(松本市)の個展を訪れた山本さんは、その精緻な北アルプスの墨絵に魅了され、店のオーナーの計らいで山下さんと対面。自作のアニメ的な風景画を見せると、山下さんから「自分の絵を描いてみたら」と助言を受けた。「自分の絵とは何だろう」。それまでは絵の「リアルさ」を追求していたが、表現方法に興味を持つようになった。
その後、竹内栖鳳や川合玉堂などの作品に触れて日本画に興味を持ち、高校を卒業してから2年後、京都造形芸術大に入学。19年春に卒業すると、都内の画廊で初個展。同年11月には清雅、今年7月末には松本市のギャラリー井上と、地元での個展も実現した。

順風満帆に思える山本さんだが、15~20歳の時、うつ病に苦しんだ。地元の高校に進学したものの、通えなくなり通信制へ。家族以外の人と会うのが怖く、「増山さんの教室へ通うのもやっとの思いだった」と吐露する。作業療法などのかいもあり、病状が回復したのは、大学入学の数カ月前だった。
「うつのときは希望がなくなる」。つらいとき、山本さんを救ってくれたのは「美」だった。それは絵や風景など目に見えるものだけでなく、吹き渡る風や、沸き起こるイマジネーション、人の優しさなども含む。
「美には力がある。絵という表現手段で、今まで出合ったことのないような美しいものを創り出したい」
山本さんの作品は多様だ。金箔や砂子などを使ってきらきらと輝く日本画もあれば、水墨画や透明水彩画もあり、抽象画も描く。今は、浮かんだイメージを素直に絵にすることを心掛け、固定した作風を求めてはいない。「一番描きたい絵を一生懸命、情熱を込めて描く。それが『自分の絵』になるという思いでいる」
今年は京都や東京でグループ展、来年は東京での個展も予定。描くスピードは速く、1作品を1日で描くことも。「どんな絵が生まれるのか、自分でもわくわくしている」。笑顔がはじけた。