看護師向け塾 県内初の開校 塩尻の八島さん

「看護師は一生、学ぶ仕事。学ぶことをやめた看護師は未来を見ていない人」
言葉に力を込めるのは、塩尻市広丘吉田に看護師や看護学生を対象にした県内初の塾を開校した八島思保さん(43)。国立がん研究センター中央病院(東京都)などで急性期看護に携わってきた現役の看護師でもある。
塾では看護師の国家試験対策講座や駆け出し看護師の基礎講座のほか、看護師が目指すべき理想像と八島さんが考える「ゼネラリスト看護師」を育成する講座もある。
吉田地区初の「女性公民館長」という顔も持つ八島さん。「人を助けることと、つなげる仕事がしたかった」。そう思うようになったのは、八島さんが中学2年生の時に体験したつらい出来事だった。

人を助け、つなげる仕事を

塩尻市広丘吉田の今井医院2階。病室を改装した一室が八島思保さんが開いた「看護師塾S♡T」の教室だ。
15日の午前中に行った講座は「国家試験対策講座」。この日は「刺激伝達系と心臓の興奮」をテーマに、心臓の働きのメカニズムや、心電図の読み取り方など約1時間半の講義をした。
松本看護専門学校(松本市城西2)2年の藤田茉優さん(19、塩尻市広丘堅石)は、病院での実習で自身の知識不足を痛感し、受講した。「学校の授業の復習にもなり、ありがたい」とし、「将来は誰からも信頼される看護師になりたい」と目を輝かす。
矢島将貴さん(28、同)は看護師になって5年目。「病院で実際に働くと、疑問やもっと勉強したいことが出てきた」と受講。「業務をこなせるだけでは本当の看護師にはなれないのでは」と意欲を見せる。
教室を提供している今井医院の今井俊輔院長(67)は「生徒をどんどん増やして、医療界に新風を吹き込んでほしい」とエールを送った。

「急性期看護」の現場経験を積む

安曇野市出身の八島さんは、中学2年の時に突然、母親が失踪。思春期だったこともあり「人を信じられなくなった」。しかし荒れた心の八島さんを救ってくれたのも「人」だった。その頃から漠然と「人を助け、つなげる仕事がしたい」と思うようになった。
高校卒業後、松本市内の看護学校に進み、国立がん研究センター中央病院に就職。その後、国立循環器病研究センター病院(大阪府)に移籍した。
主に、救急や術後患者などを診る急性期看護に携わり、大阪の病院では、多い時に1日30人以上の救急患者に対応した。生死に直結する現場で、数え切れないほどの患者に心臓マッサージを施したといい「この手で何人もの患者を助けたが、同じ数ぐらい助けられなかった」と振り返る。
25歳で松本に戻ってからも複数の病院に勤務。看護師としての業務をこなす一方、新人教育も担当。「人に教える」ことに興味を抱き、2014年に松本短期大学看護学科の教員として教壇に。そこで疑問に感じたのが学生の学習に対する姿勢だった。「教えたことは何でもコピぺ(コピー&ペースト=コピーと貼り付け)。分からなければスマホで検索。自主的に学ぶことがほとんど見られなかった」と八島さん。

公民館長の顔と看護師の仕事も

自身も教育者としてスキルアップするため、相手の内面を引き出す「コーチング」を学び、資格を取得した。2017年に独立し、コーチング事業所「時の駅」を設立。医療従事者を中心に研修会などを開いている。
塾を開校したのは、看護師という仕事の将来に対する危機感からだ。AI(人工知能)の導入やスペシャリストの養成などが進められる医療界で、「看護師に何ができる」と自問自答。導き出したのが「病院全体のマネジメント」だった。それを可能にするために、スペシャリストとは逆の、広範囲な知識を持つ「ゼネラリスト看護師」の育成が必要と考えた。
「病院に関わるあらゆる人たちを円滑に結び付けるのがこれからの看護師の役目になるのでは」と八島さん。
2018年から吉田地区初の女性公民館長として地域の盛り上げ役も担っている。「人を助ける仕事が看護師なら、つなげる仕事は館長ですね」との記者の問いに「そうかもしれないですね」と笑顔を見せた。
時の駅℡090・4373・2055