
主に中南信地区のスーパーやホテル、飲食店などに主食の白飯、巻きずしなどを届ける松本市市場の「豊炊飯」。学校給食では松本、塩尻市など3市1町に、6月から下諏訪町も加えるなどエリアを拡大。竹下弘之さんは10年前に社長に抜てきされ、赤字経営からの再建を任された。コロナ禍の現在も主食の可能性を信じ、新たな挑戦を続ける。
主食の可能性信じ挑戦続け
社長就任当時、「付加価値を付けて売らなければ商売にならない」と思っていた。竹炭や抹茶を使ったオリジナル商品を発売するが、売り上げは伸びなかった。
5年ほどたった時、群馬県のライブ会場までご飯を届けてほしいという依頼が来た。数が少なく不採算だったが、出店する他の店の分も合わせれば届けられると提案すると、数をまとめてくれた。
そこでふと、かつての職場の先輩から言われた「得意分野で勝負しろ」の言葉が頭をよぎった。「できない理由を考えるのではなく、こうすればできると提案する。サービス業的発想でいけばいい」と、視界が開けた。最近では飲食店などの、「炊飯器が壊れたのでご飯を届けて」といった突然の依頼にも対応。「困ったときの豊炊飯になってきた」と手応えをつかんでいる。
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39歳でダスキン(本社・大阪府)のミスタードーナツ事業部から、中信地区を中心に飲食店などをフランチャイズ展開する「おりじん」に転職。48歳の時、おりじんが「しなの炊飯」を買収した際、「豊炊飯」に社名を変え、社長に就いた。ミスタードーナツ事業部時代に教えられた「学歴がない分は、会社で勉強して職歴を付けなさい」の言葉は、社長になった今でも心に刻まれている。
コロナ禍で、収入の3分の1を占める学校給食がなくなった。しかし「子どもたちのおかげで会社がある。今こそお礼返しを」と、松本市内の児童センターに多い時で1日4000個のおにぎりを無料で届けた。
コロナ禍による低迷を打破するため、長野県産の食材を使った新商品「12色(食)いなり(仮名)」を12月発売に向けて準備している。そして最終目標は、冷凍のいなりずしや巻きずしを災害備蓄品にすること。冷たくてもおいしく、腹持ちがいいのは災害時に最適と考える。
「(社長職は)年齢からしてあと10年。その間に、従業員の働き方を改善し、賃金も東京都の平均に追い付きたい」と力を込める。
【プロフィル】
たけした・ひろゆき 福岡県出身。ダスキンのミスタードーナツ事業部では、九州、四国、関西、関東など全国各地で勤務。2000年、中信地区などでミスタードーナツ、牛角などをフランチャイズ展開する、おりじん(松本市平田東)に転職。10年から現職。59歳。松本市村井町南で、妻と2人暮らし。