コロナ禍の今夏 山の上は…燕山荘を取材

小屋の努力、山の癒やしに感謝

新型コロナウイルス拡大で、厳しい経営が続く山小屋。近くに医療機関もなく、街なかの宿泊施設や飲食店以上に感染防止対策に気を配る必要がある山小屋は今季、どんな様子なんだろうか―。
先週、北アルプス燕(つばくろ)岳(2763メートル)に登り、燕山(えんざん)荘に宿泊した。マスク着用はもちろん、シールドで仕切られた食堂、布団への接触範囲を狭めるためのインナーシーツにくるまった就寝…。山小屋内の様子に「いつもと違う夏」を感じた。
対照的に、「アルプスの女王」とも呼ばれる燕岳の優雅な姿、雄大な眺望、コマクサなどの自然、満天の星空は変わらずそこにあった。息苦しいこんな時だからこそ、山へ来てよかった ― 。山小屋の感染防止対策への努力と、山がもたらしてくれる癒やしに感謝した。

消毒、検温、マスク下界以上の対策も

午前5時45分、中房温泉の登山口をスタートし、3時間半ほどで合戦小屋に着き休憩。午前11時に燕山荘に到着した。山荘の周囲に咲く色とりどりの花々が、歓迎してくれているように風に揺れる。
燕山荘の入り口前には街なかの建物と同じく、アルコール液による手指の消毒、建物内ではマスクを着用し距離を保つ ― といった留意点を記した注意書きが。シールドで区切られた受付ではマスクやフェースシールド姿のスタッフが対応。検温を受け昼食を食べに食堂へ。対面席とはシールドで仕切られ、食器を片付けた後もスタッフが丁寧に除菌作業をしていた。
ザックを山荘横の荷物置き場に置き、燕岳へ。イルカ岩と槍ケ岳を一緒に写真に収めたかったが、槍ケ岳周辺は雲が多く断念。ところどころで咲いているコマクサのかれんな姿にほっこりしつつ、山頂に着いた。遠くに剱(つるぎ)岳がくっきりと見えた。
山荘に戻り着替えを終えた後は、周りの山を眺めたり登山者と話をしたり。午後5時半からの夕食は、チーズインハンバーグや焼き魚、煮物にサラダ、杏仁(あんにん)豆腐などボリュームたっぷりで大満足だった。
午後6時半から、燕山荘名物でもある赤沼健至社長(69)の話とアルプホルンの演奏。日本の山の特徴や素晴らしさの話に、山への熱い愛情を感じた。
泊まった部屋は2人用だったが、コロナ対策のため私1人の個室状態。受付で渡された不織布製の枕カバーを付け、予約の際に持参を求められたインナーシーツを布団の上に広げ、中へ入って寝た。
翌朝は午前3時半に起床。外に出ると、満点の星空がくっきり。午前4時頃、東の空がオレンジ色に染まってきた。ご来光を期待し肌寒い中を待った。そんな時、近くにいた女性登山者がバーナーでお湯を沸かしてカフェオレを作ってくれた。同じ時間と場所を共有する見知らぬ人との交流。山小屋泊の魅力の一つだ。
温かなカフェオレを飲みながら待ち、午前5時15分ごろ、雲海から太陽が昇ってきた。朝焼けに染まる燕岳、朝日を受けてきらきら輝く高山植物。とてもきれいで感動した。昨日は見えなかった槍ケ岳も姿を見せ、最高の朝を迎えられた。
朝食を済ませ、午前7時半に下山開始。3時間ほどで登山口に着いた。有明荘でゆっくり温泉につかり、汗を流してから帰宅した。

宿泊客例年の2割来夏の平穏願って

実は、中学生の時に学校登山で燕山荘に泊まった経験はあるが、当時は山にそれほど興味はなく、残念ながらほとんど記憶がない。その後、山登りの楽しさを覚えてからも爺ケ岳や蝶ケ岳などへも日帰りで、自ら山小屋を利用したのは今回が初めてだった。
1泊2日で登って思ったのは、日帰りでは体験できないことがたくさんあるんだなということだ。カフェオレを作ってくれた同年齢の女性や食堂で近くに座った人との交流、夕方や早朝でしか味わえない山の空気や景色、スタッフから聞く周辺の見どころや天気・登山道などの情報…。何よりも時間に余裕を持って行動できるので、草花や眺望などを存分に楽しめた。
実質的に初めてとなる1泊2日登山がコロナ禍と重なり、山小屋スタッフの通常時にはない苦労に接した。赤沼社長によると、関東圏在住の常連客からは大好きな燕山荘に迷惑を掛けないため今年は断念する ― といった苦渋の声も寄せられており、7、8月の宿泊者数は例年の8割減という。そんな話を聞きながら、来年の夏はいつものにぎわいを取り戻した燕山荘であってほしいと心から願った。

感染対策に勉強会3カ月の休業経て

例年4月20日ごろから営業する燕山荘。今季は約3カ月休業し、7月15日から営業を始めた。休業中は赤沼健至社長を軸に、スタッフがコロナ対策を徹底するための勉強会を複数開催。感染や症状の特徴、感染防止対策に関する情報を共有し、具体的な取り組みを詰めた。
山小屋の受け入れ人数も、通常は一度に600人収容できるところを3分の1に削減。70張が利用できる山荘脇のテント場も完全予約制で30張までとした。感染の可能性がある人の宿泊をなるべく避けるため、予約時にメールなどで体調や行動などの条件を示すなどの対策をした。
河地清人支配人(48)は「全力で感染防止対策徹底に努めているが、荒天時などには予約外の登山者も受け入れなければならない。宿泊予定でなくても、マスクは持って来てほしい」。赤沼社長も「登山の前には感染の可能性が大きい施設やイベントの利用を避けるなど、配慮をお願いしたい」と協力を呼び掛けている。