2020.11.19 日本地域情報コンテンツ大賞・タブロイド部門で2年連続優秀賞

絹糸のしおりで天蚕を気軽に 染織家・本郷孝文さん

山蚕プロジェクト 天蚕糸に触れる「入り口」に

ヤママユガの幼虫が作りだす天蚕(てんさん)糸。淡い透明感のある緑色の糸100%のしおりを使えば、秋の夜長、優雅な気分で読書を楽しめそう。
作ったのは、天蚕を後世に伝えようと活動する「山蚕(やまこ)プロジェクト」のメンバーで、染織家の本郷孝文さん(松本市清水、75)。同プロジェクトはこれまでに、スカーフなどの商品化を実現。本郷さんは「もっと気軽に天蚕の魅力に触れられる商品を」と、しおりを考案した。
販売を始めた京都で話題となり、約1カ月で80枚ほどを納品するなど人気も上々。“繊維のダイヤモンド”が新たな形で魅力を発信する。

京都新聞特集 現地で話題に

本郷孝文さんが天蚕糸100%のしおりを思い付いたのは今年初め。「まだ天蚕はなじみが薄い」と感じており、誰でも気軽に手に取れる商品を作りたいと考えていた。
早速、試作に着手。使った天蚕糸は「山蚕プロジェクト」のメンバーで天蚕飼育家の古田清さん(74、安曇野市穂高有明)、春江さん(72)夫妻の繭から取った。しおりは縦13・5センチ、横3・5センチ。それぞれ、色合いや光沢が微妙に異なり、同じものは一つもない。本郷さんは「天蚕の魅力はこの色。小さなものだが、十分、楽しめるのでは」と出来栄えにうなずく。
約10年前まで本郷さんの工房「本郷織物研究所」で働き、現在は京都市に住む石井園子さん(53)にしおりを送った。「作家をしている石井さんの夫に意見を聞きたかった」と本郷さん。石井さん本人がこのしおりを気に入り、同市内の書店などに紹介。3店舗で販売が決まった。
7月下旬の販売開始後、地元の京都新聞が本郷さんの取り組みなどを含め天蚕を特集して話題に。予約も寄せられ、製造が追い付かない状態という。本郷さんは「京都という土地柄と天蚕がマッチしたのでは」とみる。

卒業から翻意 違う表現求め

本郷さんは25歳のころ、家業を継いで染織の道へ。以後、天蚕糸を織るのがライフワークとなった。さまざまな技法を身に付け織った着尺は、女性誌に取り上げられるなど評判になった。
5年ほど前、京都府内で開いた個展を最後に天蚕から「卒業」するつもりだった本郷さん。ところが、古田さん夫妻の天蚕と出合い「これまでとは違う表現ができるかも」と翻意。古田さんらと数人で同プロジェクトを立ち上げ、スカーフやショールなどを商品化した。しかし、それらの商品は着尺よりは安いものの1枚十数万円。なかなか販路開拓までは至らなかった。

天蚕糸商品の将来も見据え

天蚕糸商品の入り口になれば-と開発したしおり。本郷さんの元には、京都の石井さんらからアドバイスも届いている。それは「手軽なものは手軽に。高級なものは高級に」。これまで商品化したスカーフなどは天蚕糸の素材そのものを生かすため無地がほとんど。石井さんらの提案は、立体感の出る織り柄を施したり光沢を増したりしてさらに高級感を出すことだった。
本郷さんがこれまでに織ってきた着尺の中には、その提案と合うものがあり、それらをもとに新商品づくりを模索する。
半世紀以上にわたり天蚕と向き合ってきた本郷さん。その下で約10年間修業し、後継者に期待されているのが望月サランさん(34)だ。「自分にできることから関わっていきたい」と意欲的だ。技術継承だけでなく、産業としての天蚕の将来も担う。
新たな挑戦を始めた本郷さん。「本物のダイヤモンドも原石を磨かなければ光らない。天蚕も本当の輝きを放つのはこれからだ」
しおりは1枚1980円。恵文社一乗寺店(京都市)のオンラインショップで購入できる。本郷織物研究所 ℡0263・32・5511